第2話 危険なクリスマスプレゼント

 ひょんなことから、白川と桃地を交えてのクリスマスパーティが我が家で開催される事になった。

 急な人数変更も、法子は戸惑う事なく、朝からキッチンで忙しくしている。


 美惑はお母さんと一緒に近所の雑貨屋さんに買い物に行った。

 みんなでクリスマスプレゼントの交換をするらしい。

 良太が配るプレゼントは、昨夜法子が焼いてくれたクッキーだ。


 ちょうど今、クリスマスらしいサンタにトナカイ、雪だるまを象ったカラフルで可愛らしいクッキーのラッピングを済ませたところである。


 ピンポーンとインターフォンがなりドアが開いた。


「こんにちはー、お邪魔しまーす」

 美惑のお母さんの声だ。

「はーい、どうぞー」

 と法子が声だけで応じると同時に、パタパタとスリッパの音が近付き、ベージュのざっくりとしたニットワンピース姿の友恵が姿を現した。


「あら? 美惑ちゃんは?」


「お友達にあげるプレゼントの準備をするからって、部屋で何やらゴソゴソしてた。私もお料理手伝おうと思って」


「あら~、よかったのに。疲れてるでしょう?」


「ううん、全然」

 そう言いながら、テキパキとシンクで手を洗った。


「良太くーん、誕生日おめでとう。もう17歳なんやねー。私たちも年取るはずね」

 そんな事を言いながら、法子とほほ笑み合う。


「美惑の事、よろしくね。良太君が傍にいてくれたら、私も安心して福岡に戻れるわ」


「え? は、はい……あはは……」


 昨日の配信で、美惑は全世界に向けて堂々と、良太との恋人宣言をしたのだ。

 昨夜は法子と隆司に、根掘り葉掘り美惑との件を聞かれ、大変だった。

 ますます別れるのは困難な状態だ。


「怪我が治るまでは階段も大変だろうから、うちで生活すればいいわ。後で荷物運びましょう」


「そうね、助かるわ。ありがとう」

 キッチンからそんな会話が聞こえて来る。


 白川や桃地は昨日の配信観ただろうか?

 たぶん、桃地は見てない。

 白川は……見ただろうな。


 ジリリリリーーーンと聞きなれないスマホの着信音が鳴った。


「もしもし」

 と応答したのは、友恵だ。


「はいはい。わかったわ」

 通話を終了し、友恵はこう言った。


「美惑、準備終わったらしいから迎えに行ってくるわね」


「あー、俺行きますよ」

 良太はラッピングを済ませたクッキーを、紙袋に仕舞って立ち上がった。

 友恵は小柄で華奢だ。

 娘とはいえ、階段を介助しながら下ろすのは大変だろう。


「あら、ありがとう。じゃあお願いしていいかしら?」

 含みを持たせた笑いで友恵が良太を見遣る。


「彼氏だもんね」

 法子が揶揄う。


「やめろ」

 親にとっては嬉しい事なのかもしれないが、良太にとってはそんな視線や態度は迷惑以外の何物でもない。

 つい悪態を見せてしまったが、お構いなしに大人たちは嬉しそうに笑っていた。



 Side-美惑


 ガチャっと玄関の扉が開いて、姿を見せたのは友恵ではなく良太だった。


「良太……。白川さんたち、もう来た?」

 なんだかぎこちない話し方になってしまう。


 これから起きる大惨事を思うと、ワクワクドキドキそわそわが止まらない。


「いや、まだ」

 良太はそ言いながら玄関を塞いでいる車椅子を外に出した。


「ねぇ、これ見て! かわいいでしょ」

 先ほどクリアのセロファンでラッピングしたルームシューズを見せる。


「何それ? うさぎのぬいぐるみ?」

「ぬいぐるみじゃなくて、ルームシューズ。モコモコでかわいいしあったかいの」

「へぇ」

「白い方が白川さん、ピンクが桃地さん」

「俺には?」

「良太には……まだ内緒。パーティが始まってからのお楽しみ」


 同じものをあげるわけないでしょ。

 良太には特別なプレゼントを用意しているのだ。


「そっか。あ、ごめん。俺、美惑の誕生日プレゼントまだ買ってなかった。後で一緒に買いに行こうか?」


「本当に? 一緒に?」

「うん。だってもう芸能人じゃないんだろ? もう一般人なんだからいいでしょ」

「うん!」


 昨日の配信の効果なのか、良太はいつになく優しい気がする。


「何が欲しい?」


「うーんと……考えとく」


「うん。車椅子下ろして来る」


「ありがとう」


 友恵は随分重そうに持ち上げていた車椅子を、良太は軽々と持ち上げて姿を消した。


 明日から冬合宿。

 勉強主体とはいえ、軽井沢三泊四日の旅行は生徒たちにとっては、ずっと楽しみにしていたビッグイベントの一つ。

 良太がこの合宿で、白川との仲を深める可能性は高い。

 

「私がいない所で、そんな事はさせない」


 なので今日、白川には大けがをしてもらう。

 死にはしないが、明日からの合宿は無理っていう程度のね。


「私と同じ目に遭うといいわ、ふふ」


 さきほどラッピングを済ませた白いうさぎのルームシューズの底にはたっぷりと蝋を塗った。

 フローリングの上を歩けばツルツル滑って大変危険である。

 このルームシューズを、絶妙なタイミングで白川に履かせるのが、今日のミッションだ。


「ちょうど、白川さん達、来たみたい。行こうか」

 車椅子をセットし終わった良太が、玄関に再び姿を現した。


「うん。行こう」

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