第4話 運命のクリスマスパーティ

「あー、桃地さん!」

 声を上げたのは白川だ。


「きゃわわわわー。やっぱり運命!」

 桃地はグーにした両手を顎先で揃えて、クルクルと三回ほどその場で回った。


「ところで皆さん! お揃いで、なんだか楽しそうですね」


 桃地にはこの光景が楽しそうに見えるらしい。


「もしかして、もしかして……クリスマスパーティですかー?」

 

「まぁ、そんなとこ」

 美惑が無表情で適当にあしらう。


「桃地さんもよかったら一緒にケーキ食べる? クリスマス限定の」


「いいんですかぁ!」

 白川が言い終わらないうちに、一ミリほどの遠慮を見せて桃地が美惑の隣に腰掛けた。


「すいませーん」

 白川が店員を呼んで、先ほど三等分にお願いしたケーキを四等分に切り分けてもらえるようオーダーした。


 ケーキの代金を出したのは白川だから、そのケーキをどうするかというのを決めるのは、当然白川であるべきなのだ。


 よって、誰も文句を言う権利はない。


 クリスマスを意識しているのか、桃地は白いふわふわのニットワンピースを着ていて、今にも妖精のように宙を舞いそうだ。


 美惑だけが、普段着でなんだか可哀そうな気がした。


「美惑さん、その怪我どうしたんですかぁ?」

 メディアに弱い桃地は一連の騒動を知らないらしい。


「自殺未遂よ。双渡瀬君ちのアパートの屋上から飛び降りたの」

 なかなかのハードパンチを繰り出したのは白川だ。


 不適切~~~。


 桃地は声なく、顔にびっくりマークを連打させた。


「美惑さん、何か悩みが? 桃地でよかったら相談に乗りますよ?」


 その顔は、冗談や茶化しではなく、心から心配しての言葉のように思えた。

 美惑は、迫りくる桃地の圧から逃れるように少し仰け反ってこう言った。


「あ、ありがと」


「そう言えば美惑さんって、どえらいアイドルなんですよねぇ。桃地、美惑さんとお友達になれて嬉しいです!」


 いつからお友達になったんだ?


「そ、そう? ありがとう」

 美惑は困惑気味だが、なんだか少し嬉しそうだ。


「あ、そうそう。冬合宿、みんな楽しんで来てね。私は行けなくなっちゃったから」


 美惑は沈んだ声でそう言った。

 わざと何でもない、平気な顔を無理に作って……。


「へ? 桃地もお留守番ですよ?」


「え? そうなの?」


「はい! 転校してきたタイミングが遅くて、申し込みが間に合わなかったんです」


「そっか。行きたかった? 冬合宿」


「とっても! 桃地は、NTR学園に来る前、普通の公立高校だったので、そんな青春イベントはなかったのです」


「そっか。なんで転校してきたの?」


 桃地の顔色が急に変わった。

 なんだかとっても聞いたはいけない事だったような……。


 教師が言うには、確か、家庭の事情とやらだったような気がするが、何か訳ありなのか?


「さぁて、なんででしょう?」

 明らかに低くなったトーンに、全員がこっそり顔を見合わせた。


「じゃ、じゃあさー、うちに泊まりに来る? 冬合宿の間、うちにおいでよ」


「え? 本当に? いいんですかー?」


「うん。一緒に合宿ごっこしようよ」


 そう言えば、上京してまだ2年と経たない美惑にとって、初めてできた女友達が桃地なのかもしれない。


「ね? いいよね? 良太」


 美惑が良太の顔を覗き込む。


「もちろん! 母さんに言っとくよ」

 ――桃地が美惑の見守りをしてくれるなら俺も安心だ。


「お土産たくさん買って来るよ」


 その様子を白川は大人っぽい笑顔で見守っていた。



 まったり濃厚なチョコケーキは、四等分でちょうどよかったと思わせるほど重かった。

 アメリカンコーヒーで口を直して立ち上がる。


「さて、帰るか」


「それでそれで? 俳優志望の山岡君はどうなったの?」

「もうね、おしっこチビるんじゃないかってぐらい涙目でー」

「やだやだー。そんな山岡君、見たくなーい」

「それで美惑さんはどうしたのですか?」

「そりゃあ、フォローいれたわよ。アドリブアドリブ」

「きやー! さすが天才アイドルー!」


 なぜか女子トークが盛り上がり、良太はすっかり置いてけぼりを食らっている。


 勢いよく立ち上げた腰を再び椅子に沈めた。


「明日、クリスマスパーティするの。私と良太って12月25日が誕生日で、去年も一緒にパーティやったんだよ。よかったら明日、来ない? 良太んちでパーティなんだけど」


「え? いいの?」

「行きたいです!」


「ねっ、いいよね? 良太」


「え? あー、うん。大勢の方が、楽しい……かもね」



 というわけで、明日は我が家で運命のクリスマスパーティが行われる事となった。

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