第3話 古参VSにわか
「あいつら、にわかだろ」
「にわか? どうしてそう思うの?」
「美惑の実家が東京じゃない事なんて、古参のファンなら誰でも知ってる。美惑の実家は福岡だし」
「そう言えば、変わった方言で喋ってるね」
いのりの声には反応を見せず、陸翔はデスクトップパソコンのマウスを触って画面を明るくすると、やたらチカチカと怪しげな光を放つキーボードを叩いた。
背後から画面を盗み見ると。
『美惑の実家が東京なわけないだろ! 失せろにわか』
陸翔はそう書き込んで送信した。
見ると、陸翔と同じように、美惑の出身地についての書き込みが散見される。
「美惑さんのお家じゃないって、みんな間違ってたって気づいたら、あの人達もいなくなるよね?」
期待を込めてそう言ったが。
「甘いな。ネットって言うのは正しい情報ほど拡散されにくいんだ。間違ってたって、より面白い、刺激的な方に人は流れていくんだ」
そういって、マウスを操作してリプライ欄のツリーを展開した。
『場所なんとなくわかったぞー』
『近くなんだが行けば美惑に会えるのか?』
『本人の口から本当のところを聞きたいよな』
『よし、行こうぜ!』
ずらっと並んだ書き込みは、陸翔が言うように、正しい情報よりも間違った情報により多くのリプライがついて行く。
窓の外は、変わらず若者たちがうろついていて、奇声を発している者もいる。
「運営に通報して写真削除してもらおうよ。プライバシーの侵害でしょ」
「今やってる。ったく、誰だよ、ガセ流したやつ。ぶっ殺す!」
陸翔はしかめっ面のまま、目にも止まらぬ速さでタイピングしては、マウスをクリックしている。
「それはいいとして、外の奴らが鬱陶しいな。あいつら表札の字も読めないのかよ。バカだろ!」
こんな時に、頼りになるはずの父は不在(たぶん不倫中)。
母は鬱が悪化してほぼベッドの中から出られない状態である。
「私、話に行ってくるよ。ここ美惑さんのお家じゃありませんよって」
「やめた方がいいよ。警察呼ぼう」
「ちょっと待って。警察呼んで逆恨みでもされたら大変じゃない? なんだかそっちの方が怖い」
「でも、多分、切りがないよ」
「あ、そうだ! じゃあさ、美惑さん本人に声明出してもらおうよ。そこは私のお家じゃありませんって。迷惑なのでやめてくださいって」
「え? 美惑と連絡取れるのかよ?」
「うん。直接ではないけど。クラスは違うけど、同じ学校の同級生だからね。それに……」
おっと、これは言っちゃダメだ。もうすぐ別れる予定の彼氏が同じクラスでけっこう仲良し……だなんて。
うっかり口を滑らす所だった。
「それに?」
「ううん。なんでもない」
Side-良太
学校は今日から冬休みに入った。
色々あったが明日は予定通り白川とカフェデートだ。
良太は夕飯を済ませ、部屋でまったりと映画鑑賞をしている。
ローテーブルの上に置いたノートパソコンから流れているのは韓国ドラマのラブコメで。
良太はあまり好きなジャンルではなかったが、話題になっていたので観てみたら、なかなか面白く全話一気観する勢いである。
「ねぇ、他のにしようよ」
美惑は、良太の隣でポップコーンを頬張りながらつまらなそうにそう言った。
「え? なんで? これ面白いじゃん」
「それ、よく考えたら、前観た事あった」
「いや、俺は観た事ないし、今いいとこなんだから。文句があるなら部屋に帰って自分で観ろ」
と意地悪を言うぐらいには、カチンと来た。
部屋にはまだ、とても帰れないのだ。
「無理」
「なんで?」
「このアパートワイファイが脆弱だから、クルクル回ってなかなか進まないんだもん」
「あーそうですか。そりゃあ悪かったな。親父に言っとくよ」
家の周りにいた迷惑系ユーチューバーたちはパっと見一掃されているかのように見える。
しかし、一人だけ『ケンタロス』というユーチューバーが未だ粘っていて、良太を捉えようとどこかでずっと配信しているのだ。
よって、美惑を迂闊に外に出すわけにはいかない、と言う事で、あれ以来ずっとうちに泊まっているのだ。
「これ、この後、主人公が死ぬよ」
「は? 嘘だろ? ラブコメでそんな展開あるかよ、っていうか、ネタバレやめろ」
そう言った時だった。
パソコンのスクリーン、右端から通知がポップされ、チャットルームのメッセージ冒頭が映し出された。
『送信者:白川いのり 至急連絡ください。相談があります』
ギコギコギコと隣に首を回すと、美惑の目が三角に尖っていた。
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