第2話 マイクロビキニの誘惑

「円順列っていうのは、a、b、cが円に並んだ時、何通りの並び方があるかっていう……。ちょっと美惑! 聞いてるのかよ?」


 ハート型のテーブルで、隣に座っている美惑はスマホの通知が気になるらしく、いちいちそちらに気をとられている様子。


「はいはい、聞いてる!」


「じゃあ、これ解いて。何通り?」


 ファンシーな色合いのこの部屋は、もちろん美惑の部屋。

 先日のテストで見事赤点ゲットした彼女は追試のための勉強中である。

 教科担任による補習も、もちろんあるのだが、時間が合わず受けられないらしい。


 30分ほど前に、電話で泣きつかれ家庭教師代わりをやっているというわけ。


 とはいえ、ここは二人っきりの彼女の部屋。

 何度も体を重ね合い、おもちゃにされ、秘密を共有している場所。

 別れ話は全く進んでいない。


 そんな状況で、ここにいていいのか? 答えは……


「6通り!」


「ブッブー! 違います。一列だったらそれでいいんだけど、円になると……」


 2通りなんだよな。

 いいかダメか。〇か×かの二通り!

 △は、ない。


 シャーペンを持ち、ノートに図解を書いていると、横顔にやたらと視線を感じる。

 ちらっと横目で確認すると


「ちょっと、何見てるの?」


「良太の顔。どこからどうみても普通っちゃんねー」


「うるさいよ。顔じゃなくて、ノート見なよ」


「だって久しぶりなんだもん。こんな近くで良太の顔見るの。ね、お願い。もっとよく、見・せ・て」


「ちょ、ちょーーーっ! やめろ」

 正面からずいーっと寄って来るから、思わず後ろに仰け反ったところに、美惑が覆いかぶさって来た。


 どしんっと床に後頭部を打ち付ける。

「いってー」


「噛めば噛むほど味か染み出るスルメみたい」

 そう言いながら顎先に噛みつく。

「痛い痛い。やめろー」


「毎日食べても飽きない真っ白いご飯みたい」

 言いながら首筋に吸い付く。

「くすぐったいくすぐったい。やめろって」


 甘いフルーティな髪の香りが鼻腔から侵入して、脳を支配する。

 理性がじんじんと蕩けていく。


「ちょっと、ダメだって。美惑?」


「いいよー、何もしなくても」


「へ?」


「私が、してあげる。色々……」

 そういって、良太の耳をかぷっと口に含んだ。


 リアルASMR。

 くすぐったさと気持ちよさに身もだえる。

 体は素直に反応していく。


 しかし、白川の尊い笑顔が脳裏にカットインしてきて、理性を取り戻した。


「ちょっと、美惑!!」

 腕に力を込めて美惑を引き離す。


 近くで見る美惑の顔は、破壊力抜群にエロ可愛い。

 髪は顎の辺りで切りそろえたミルクティ色。

 唇は火照りでぷるぷる。

 ノーメイクとは思えない吸い付くようなもっちり肌。

 つぶらな瞳は青みがかった黒。

 その瞳を揺らしながら、良太の前で体を硬くしている。


「ごめん……」

 こんな風に拒絶したのは初めてで、つい謝った。


「どうして? 私、何がいけなかった?」


「美惑が悪いとかじゃなくて、あの、俺」


「あ、そっか。制服じゃなくて、たまには違う服がいいよね?」


「いやいや、そうじゃないんだ」


「裸にエプロンとか!」


「え? ああ……」

 美惑の生裸エプロン、堪らん。


「この前グラビアで使ったビキニとかぁ、良太ああいうの好きっちゃない?」


「ああ、インスタに載せてたやつ……」

 ベージュなのかゴールドなのかわかんないけど、とにかく肌に近い色のマイクロビキニはドキドキした。


「じゃあ、着替えて来るね」


「えええええ? いや……」


 美惑はクローゼットをガサゴソした後、バスルームの方へと消えた。


 ロリ系小悪魔FカップJKアイドルの生マイクロビキニに、否を出せる男がいたら連れて来てほしい。

 この場合の答えはもう、Yes>>>>No。

 限りなく1通りである。

 生で見るだけでも価値がある。


 ジーーーン、ジジジーーーーン。

 テーブルの上で、美惑のスマホが暴れている。


「電話……」


 スクリーンには、別世界の人物の名前が表示されていた。


『朱理』


 ここ1年ほどで、大バズリして人気者になったシンガーソングライターだ。

 世間は彼を天才アーティストと呼ぶ。


 楽曲はもちろんだが、朱理の脅威はそれだけではない。

 甘く透き通るような歌声に、西洋風の整った顔立ち。

 いわゆる絵に描いたような。

 少女漫画だったら絶対に主役級のイケメンである。


 もしかして、ずっとスマホを気にしてたのは、こいつからの連絡だったのか?


 着信の直後、スマホは再び短く震えてメッセージを伝えた。


『今夜の打ち合わせ、俺んちでいいかな?』



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