Episode2
第1話 運命の人
Side-美惑
四角く切り取られたを壁を背に、ジャージ姿の白川いのりが仁王立ちしている。
背後からの陽光が眩しくて、つい目を細めた。
「茶番、ご苦労さま」
「は?」
「けど、悪手だと思うな。ドッキリって落ち」
「どうしてよ?」
「だって、そんな動画はないんでしょ? 少なくとも双渡瀬君には通用しないわね」
「ふふ~ん、お見通しって言いたいの?」
「さぁ、どうでしょう」
口調は冗談じみてるのに、目は一ミリも笑っていない。
涼し気で表情のない視線は、美惑の目を真っすぐに捉えている。
「そんなの、別にどうにでもなるんよ。私のトーク力と拡散力、甘く見んな」
「ふふ。トーク力はどうだか知らないけど、拡散力は認めてあげる」
「アイドル様ですからねぇ」
と言いながら舌を出して見せた。
「良太って私がいないと本当ダメなのよねー」
あんたの出番なんてないのよ。さっさと良太の前から消え失せなさい。
「本当は気付いてるんでしょ?」
「はぁ?」
「もう双渡瀬君の気持ちは、あなたにはないって」
ズサっと心臓に五寸釘を打ち込まれたような衝撃が走る。
「ふ? 何言ってるの? 可哀そうだから教えてあげるね。私と良太は運命で結ばれてるの」
「運命? ぷふっ、あっははははーーー!! 本気で言ってるの? ごめんなさい、笑っちゃって。あまりにも子供っぽい事言うから。頭おかしいのかなと思っちゃった」
パチン!!
美惑は思わず、白川にビンタしてしまった。
じーんと手のひらが熱を持つ。
その直後。
パチン!!!
突然、目の前に閃光が走った。
お返しの平手が頬に飛んで来たのだ。
ジンジンと疼く頬をおさえながら白川を睨みつける。
「いったーい、やったわね」
そう言って掴みかかろうとしたところ、再び、白川の平手が飛んできた。
バッチーーーーン!!
一瞬、視界がオレンジ色に変わり、耳までじーんと熱くなる。
「これはあなたに嫌がらせされた分よ。これで、おあいこ。制服、返して。この事はみんなには黙っててあげる」
美惑は痛みに顔を歪めながら、制服が入った紙袋を乱雑に白川の胸元に突きつけた。
白川はそれを受け取り、中身だけを取り出して、無造作にロッカーに入れると、美惑の胸元に紙袋を突きつけた。
「今度やったら、今回の事も含めて全校生徒の前で晒し上げるから、そのつもりで」
そう言って美惑に背を向け、入り口に向かって歩き出した。
勝ち誇ったようなその背中に
「良太とは絶対に別れないから」
と叫んでやった。
その声に白川は足を止め、半分だけ振り返り、顔だけをこちらに向けた。
「私だって絶対に諦めない。これからは遠慮なく彼にアプローチする事に決めたから」
そう言い残して、カツカツと革靴のヒールを鳴らしながら、体育館の方へと消えて行った。
更衣室を出ると、普通科、進学コースの男子達がふざけ合いながらグランドのトラックをランニングしている。
先頭から尻尾までのちょうど真ん中辺りで、前にも後ろにも笑いを振りまきながら、走っているのは良太だ。
追い越さないように、追い越されないように。
そんな位置を保ちながら、良太はいつも、可もなく不可もなく存在している。
特段、目立つわけでもないのに、いつの間にかみんなの中心にいて、たまに妙にモテたりするからタチが悪い。
もっとダサくて、もっとバカだったらよかったのに。
――私以外の女は誰も、良太の良さに気づかなければいいのに。
Side-良太
「ピーーー!!」
体育教師が吹くホイッスルの合図で、フィールドに整列する男子生徒たち。
今日は、走り幅跳びの最終テストである。
「今日はお前に負けないからな」
すっかり通常モードの並野が良太の背中を叩いた。
「おお。俺は負ける気満々やぞ」
「お前、美惑ちゃんと顔見知りだったのか?」
「は? いいや。なんで?」
並野は、女子の更衣室の方に向かって顎をしゃくった。
「ずっとお前の事見てるだろ」
並野が示す方に視線をやると、美惑が両手を大きく振りながらぴょんぴょん飛び跳ねている。
「頑張ってーーーーーー」
良太に言っているのだと思ったが、勘違いした男子たちは美惑に向かって「うぉぉぉぉおおーーー!!!」
と反応した。
――めでたいヤツらだ。
「今日、転入してきた桃地って子も、お前の事知ってたぽいだろ? なんで知ってたんだ?」
「ああ、今朝、バスが一緒だったんだ」
「それだけ?」
「ああ、そうだよ」
遡る事2時間前。
美惑がドッキリのネタバラしっぽい事をして去った後。
なんと、普通科進学コースに転校生がやってきた。
本来なら大ニュースなはずなのに、美惑のせいでクラスメイト達の興味が桃地に引かれる事はなかった。
転校早々、とんだ災難だよな。
お気の毒。
なのは、良太である。
なんと、桃地の席は、良太の隣だったのだ。
席に着くなり桃地は良太にこう言った。
「今朝は、あ、あり、ありがとうなのです」
「ああ、いえいえ、別に。大した事はしてないから。気にしないで」
「ももちの、初恋の相手は」
「へ? はい?」
「あなたに決まったのです」
「は? はいーーー????」
思わず素っ頓狂な声で叫んでしまった。
「双渡瀬ーー!! 静かにしろ!!」
と担任に怒鳴られ、みんなに笑われた。
初恋の相手に決まったとは?
一体どういう事だ?
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