殺人鬼のモノローグ③
殺人鬼のモノローグ③ 1
正直、彼を殺してしまったのは突発的なものだった。本来ならば殺害する予定のなかった彼だが、まさか地下室で鉢合わせになってしまうなんて思ってもみなかった。
彼もまたさぞかし驚いたことだろう。事実、取りに来たであろう食糧を取り落としつつ「お、お前だったのか――」と驚愕の表情を浮かべていた。
このまま彼を逃してしまっては、計画が破綻してしまう。気がついた時には、工具箱の中にあった工具の中から、大きめのモンキーレンチを手に取って、彼に襲いかかっていた。最初の一撃で仕留めたかったのであるが上手くいかず、彼を地面に伏せるだけにとどまった。思い返せば、ここで容赦なく追撃して息の根をしっかり止めるべきだったのだ。その出血量から、助かることはないと踏んで、情けをかけてしまったのが間違いだった。
あの男――彼は地面に何かを書き残した。そして、こちらに分かるようにゆっくりと、そしてはっきりと言い切ったのだ。
――犯人の名前をここに残した。と。
その言葉と、書き残されたものを見て、なかば反射的に血の文字を踏みにじって誤魔化したが、あそこにはなにが書かれていたのだろうか。事前にしっかりと準備をしていたつもりだったのだが、勉強不足だったことが露呈してしまった。
まぁ、どちらにせよ血文字は隠蔽することができたし、そこから自分にたどり着かれることはないだろう。
もうじきに嵐も明けることだろう。そうなれば、いよいよ本土に戻ることになる。どこまで彼らを欺き、そして誤魔化すことができたのか。それはきっと、のちに明らかになることだろう。
今はただ、嵐が過ぎゆくのを待とう。この惨劇の中、じっと耐えている彼らのように。それを嘲笑ってやるかのごとく。
すぐそばで聞こえた雷鳴は、しかしいささか気持ち良く心の中に響いたのであった。
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