19話 防衛班
『いいか。防衛班の仕事は守ることだ。何があっても仲間を守る。守るだけというのは言うだけなら簡単だ。でも実際は最も責任と後悔の伴う役割を背負わなければならない役職。幾度も死線をくぐれば、必ず取りこぼす』
班別授業が始まって、初日。
『俺も、作戦行動中にたくさんの命を取りこぼしてきた。それでも、多くの命を守れた。それは、日ごろの鍛錬と守りたいと思う心があったからだ』
「日ごろの鍛錬と、守りたいと思う心……」
「俺、頑張ります!!」
ぽやーっと考える花の隣で大地が拳を突き上げた。
『おう!その意気だっ。』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
花は初日に膠灰に教えられたことを思い出しながら能力を繰り返し使っていた。
防衛班の三日間。一日目は筋トレ。二日目、三日目は膠灰が繰り出す攻撃を防ぐというもの。
花と大地は今日も朝からずっと様々な角度から繰り出される攻撃を防ぎ続けるという地味だが体力と精神力を使う訓練をしていた。
「よし、いったん休憩にするぞ!」
膠灰がそう言うと、二人を襲ってきた攻撃がやんだ。
「はあっ……はあっ……。ひゃあっ」
気力と体力を使い切って、倒れ込むように地面に膝をつき、荒い呼吸を繰り返す花の頬に冷たいものが当たった。
「ほら、水だ!」
花が顔を上げると、同じように息を切らした大地がにかッと笑って冷えたペットボトルを差し出していた。
彼の髪は汗で濡れていて、それが太陽に照らされて輝いている。疲れてはいそうだが、まだまだいけるようだ。
ー土蜘蛛くんは本当に凄いな〜
花はまだこの三日間で大地が座り込んでいるのを見たことがない。訓練で手を抜いているわけではないのを見ると、単純に大地が強いということだ。
「ありがとう~」
花は感心しながらそれを笑顔で受け取って勢いよく飲む。
「昨日の分の筋肉痛も相まってもうへとへとだよ~」
花は残り半分ほどになったペットボトルで首を冷やしながら言う。
「確かにな。でも、確実に自分の為になってるって感じるぜ」
大地は右手を握るのを繰り返して、以前よりも筋肉がついていることを確かめた。
「うん。防衛班は、皆を守る砦だもんね。きつくても、頑張って強くならなきゃ」
よしと花は気合を入れて立ち上がろうと腰を上げた。それを膠灰が止める。
「お、待て待て!ひとまず座ってていいぞ!」
花の隣に大地が座る。二人の前に膠灰は仁王立ちした。
「明日は、ついに模擬作戦の日だ!模擬作戦はバーチャル空間で行う。戦闘班、防衛班、情報班、サポート班をランダムに三つの班に分けて様々な環境で敵の討伐をやってもらうことになっている!能力検査の時とは敵のレベルは格段にあがってるぞ。死ぬことはない。だが、実践と同じ感覚でやってこい!」
「はい、先生!」
「はーい」
「誰一人傷をつけずに成功させようぜ、蔓草!」
大地は立ち上がって座っている花に拳を突き出した。つられて笑顔になってしまうほど眩しい笑顔を向けられる。
「お~!」
花も負けじと笑って、コツンっと自身の拳を当てた。
「気合は十分って感じだな!」
膠灰は満足そうに頷いて大地の肩に腕を回した。
「それじゃあ、明日に備えるってことで今日の授業は終わり……っておっと言い忘れるところだった」
膠灰は大地から手を離して向き直った。
「大地、花」
オルミゴンとしての膠灰の瞳が二人を捉える。
花は立ち上がって大地の横に並ぶ。
花が彼と過ごしたのはたった三日間。第一印象から彼は、筋トレ好きの脳筋。指導のほとんどは擬音語で感覚任せ。情熱はあるが教師としては劣っているとみた。それは今でも変わらない。でも彼は、重要なことを言う時だけはヒーロー「オルミゴン」としての顔になる。大切なことを三日間の節々で二人に教えてきた。
「俺達の仕事は仲間や人々を守ること。だが、それは自己犠牲をしろと言っているわけじゃないぞ。自分を守れなければ、守りたいものは守れない。防衛班は絶対に倒れてはいけない。いいな?」
花の隣で大地がつばを飲み込んだ。その手が強く握られた音がした。
「……はいっ」
大地が腹の底から絞り出したような声を発した。
「あの、先生」
花は返事の代わりにずっと引っかかっていたことを口にした。
「何故私だったんですか?」
花の能力はツタを操るというもの。土の壁を作れる大地とは明らかに防衛班としての価値が違う。膠灰は花の能力に適した守り方を教えてくれたが、他にも適任がいるのではないかと幾度も思った。
膠灰と花の視線が交わる。
「な……」
「な……?」
膠灰の口が開く。花は胸の前で手を組み、じっとその口がどんな言葉を紡ぐのかを期待して待った。
「なんとなくだっ!」
はっはっはーと膠灰は歯を見せて笑った。
「なんとなくって適当すぎだろっ!」
大地が突っ込みを入れた。
「なんとなくか~。そっか~」
花はのんびりとした声を出した。
大地が花の方をばっと見る。茶色の目が大きく開かれている。
「え、その答えで納得するのかよ!?」
「え〜?なんとなくって先生がいうならそうなんだーって感じだよ〜」
花は首を傾げた。大地はそんな花を見て、少し考えた後花の背中をバシバシ叩いた。
「確かに先生が言うなら何となくだなっ!」
適当な回答に二人が納得しているところで、
「さあさあ、聞きたいことが終わったならさっさと寮に返ってよく寝ろよ!」
と膠灰が二人の背中をグイグイ押し始めた。
二人はそれにおとなしく従って、今は三時過ぎではあるが早めに寮に戻った。
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