17話 合同訓練4
「このままじゃ、キリがないですね……」
沙知は太い木の棒で襲いかかる猛獣を払い除けながら呟く。
「このままだと一生森を抜けられなそう」
繋達は、亮輔達と別れた場所からほとんど前進できていなかった。
「私一人だけでも森を抜けられれば、ワープを使って脱出できるんだけど、この状況じゃ例えここを抜けられたとしてもすぐに猛獣に囲まれる」
「けーちゃん一人…あっ!」
沙知が突然声を上げた。
「何か思いついたの!?」
「はい、えっと、
沙知は頭を抱えて猛獣の攻撃を避けながら綾人に問いかける。
「……そいつも、一緒に飛ぶことができる。……体重制限はあるが、例えば……箒を操れば魔法使いのように箒で空を飛ぶこともできる」
「それならっ……!」
繋の背後から襲い掛かってきた猛獣に地面に落ちていた木の葉をかけて沙知は続ける。
「操馬くん、なるべく太くて大きな、人一人を運べる枝を操ってください!そして、けーちゃんはそれに掴まって森を抜けてください。私達の所と、森の出口を繋いでください」
「ナイスな提案だとは思うけど、空を飛んだとして、そこに危険な生物が襲い掛かってこないという確証はないし、そもそも森の出口まで正確に操れるのかい?」
「通信して、方向を指示してもらえれば……ある程度は操れる。……けど、確実に、正確に運べる自信はない……安全は、保障できない」
「なら、操馬くんも一緒に行くというのはどうですか?」
綾人は首を振った。
「……確かに、そうすれば正確には操れる……が、同時に二本の枝を操るとなると……正確さは格段に落ちる……同じ枝に掴まれば墜落の可能性が高まる……。確率的に言えば……一緒に行く方が成功確率は……低い」
「今はこれしか方法はないんでしょ?」
繋は口をはさんだ。
「なら、私一人で行くよ。ある程度私は戦える。私が言っている間、操馬を守る人がいる必要がある。門限の時間も迫ってる」
「でも、もしものことがあれば……!私は、この授業に合格することよりもそれのせいで友達が傷つくことの方が嫌です……!」
沙知が声を荒げた。
「沙知。私達、ヒーローを目指してるんだよ?多少の危険はつきもの。指揮をするのが好きって、沙知言ってたよね?もしかして、沙知の夢は指揮官だったりする?」
沙知は黙り込んだ。繋はそんな沙知の横顔を見て、ほおを緩めた。
「私は操馬の能力を信じる。だから沙知……ううん、エピステ。指揮官を目指しているなら私と操馬を信じて、送り出して」
「……。はい、そうですね。
沙知が指さした先には、人一人を運べそうなほどの木の枝を付けた木。
「勿論」
活水は目の前の敵の腹部に拳を入れた後、地面を蹴って小さく飛び上がり、身体を二つ折りに曲げた熊のような猛獣の頭を使いもう一段回大きく飛躍した。目標の木の枝の上に立つと、付け根に手を置いた。木だけでなく、周囲の地面全体に大きな衝撃が生まれた後、一メートルほどの丈夫な枝が地面に落ちた。その枝の上に右手をかざすと、掌から水が噴き出した。水は枝全体を包む。
「できたよ」
涼しい顔で活水は言った。彼の足元には掴まりやすいように小枝や葉っぱが取り除かれた枝が転がっていた。
「ありがとうございます!操馬くん、あれを操ってください。そして、けーちゃんと通信をつなげ、一番近い森の出口へと誘導お願いします。その間、私達は全力であなたを守ります」
沙知は綾人に頭を下げた後、繋と向き合った。
「クレイス。操馬くんの操る枝に掴まって森を抜けた先と、私達がいるところを繋げてください」
「了解」
繋は頷くと地面に手を当てる。数秒もしないうちに人一人が入れるくらいの扉が地面に出現した。
「ひとまずこっちの扉は設置完了した」
「……枝の方もいつでも大丈夫だ……」
綾人が手を一振りすると、枝が浮かんで繋に近づいてきた。繋は空中ディスプレイを何回かタップする。
「今、みんなと通信を繋げた。後は頼んだよ」
繋は自分と綾人を猛獣から守っている活水と沙知の背中にそう告げると、枝にまたがった。
「操馬、よろしく」
綾人は僅かに頷いて手を上にあげた。繋の体が枝と共に一気に上昇する。
「けーちゃん!脱出口の方は任せましたっ」
「こっちは僕がいるから心配ない。気を付けて」
次第に仲間たちの姿は多い茂る木の葉に遮られて見えなくなっていた。
繋は周りを見渡す。空中にも鳥の姿をした猛獣がいるかもしれないと繋は危惧していたが、それらしき生物はいないようだ。
「操馬、聞こえる?」
繋は腕時計から小さく表示させている空中ディスプレイに向かって話しかけた。
『……ああ』
綾人からの返事を確認した後、繋はディスプレイを操作して小さいものをもう一つ表示させた。左の方は、仲間と通信を繋げているもので、新しく出した右の方はコンパスを表示させるためのものだ。
「南に直進。進路がずれなければ、すぐにたどり着けそう」
繋は一番近い森の出口とコンパスの方角を照らし合わせながら言う。
『……了解』
枝が一気に出口に向かって進み始めた。繋は振り落とされないように両手でしっかりと枝を掴む。
「操馬、少し西寄りになってる」
繋は綾人に細かく指示を出して最短距離で出口を目指す。綾人はその都度繋の要求を完璧に実現させてくれていた。
ー喞筒との能力検査を見た時、多分黙々と要求をこなす仕事人タイプだろうなとは思っていたけど能力をここまで完璧に近いほど操れるとまでは思ってなかったな。喞筒も、ほぼ一人で私達三人を守れるほど強い身体能力を持ってる。沙知の閃きで活路を見いだせた。
『あかりちゃんから、あっちのチームは森を抜けたと連絡が来ました!』
沙知の声がした。
ー魅輪や、あかり、
「操馬、抜けた。下約十メートル」
ゆっくりと地面が近づいていく。遠くから操っているから揺れがあってもおかしくないはずだが、繋が落ちそうになるほど大きな揺れは一切ない。
「ストップ。あと二メートルくらいだから飛び降りる」
繋は降下が止まった直後に飛び降りた。直ぐに地面に手をついて扉を設置する。
「今こっちとそっちを繋げた。扉を開いて飛び込めばこっちに来れるよ」
『了解した。知多さんから順にそっちに行くよ』
「お願い」
扉が開いて、沙知が中から飛び出した。
「けーちゃん!」
繋は沙知を受け止める。沙知の後に続いて綾人、活水が飛び出してきた。全員が脱出したことを確認すると、繋は扉に触れた。扉は淡い光に包まれた後、跡形もなく消え去った。
「さて、早くあかり達に連絡してどっかで合流して学校に向かおう。制限時間は門限の18時。今は17時過ぎでここに来るまでに一時間かかったから結構ギリギリだよ」
「連絡ならもう済ませてあります。来るときに通った神社で集合、という話になりました。向こうは魅輪くんが負傷しているようなので先に向かうとのことです」
「仕事が早いね」
繋は沙知の機転の利いた行動に目を丸くしつつ、三人を促した。
「こっちは喞筒のお陰で全員動けるし、早く合流して全員でクリアしよう」
「はい!」
「君にそういってもらえて光栄だよ」
「……」
四人は学校へと続く道を駆け出した。
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