16話 合同訓練3
「分かれたみんなの安否が心配だ」
走りながら亮輔は眉をひそめた。その頬を大量の汗が伝って風になって飛ばされていく。その黒い目はどこか虚で、荒い呼吸を繰り返していた。
「みんなの心配より、自分の心配したら?キミ、結構息が上がってるしフラフラだよ」
亮輔の横を走っているきいはため息をつく。
「あたしが突っ走っちゃったばっかりに……ごめん」
きいの隣で申し訳なさそうに謝るあかりをちらりと見て、亮輔は微笑みを作った。
「俺は大丈夫。
「その必要はないでしょ。何かあれば、使役している鷹がボクに教えてくれる。それがないってことは大丈夫ってことだよ。今引き返してもボク達が無事にこの森を抜けられる保証はない。特に、戦闘担当のキミがその状態ならなおさら。あっちには頭の切れるさっちゃんや戦闘においてトップクラスのかつみんがいる。だからボク達はこのまま一直線に森を抜けるべきだ」
痺れを切らしたきいは
「原因を作ったあたしが言うのもあれだけど、きいの言うとおりだよ。あたし達は戦いが得意ってわけじゃない。だから今後襲われたら、りょーくん頼みになる。でも……その様子じゃ、あたし達を守りながらなんて無理でしょ?」
あかりが亮輔の横顔を見つめた。亮輔は沈黙を貫いたまま俯く。その瞳は迷子の子犬のように、震える様に揺らいでいた。
「キーワードは、『協力する仲間をしっかり見ること』今のあたし達の状態じゃあ、最大限に力を使えない。……違う?」
あかりは縋るような目で亮輔を見つめた。亮輔の漆黒の瞳があかりの檸檬色の瞳を捉える。
「……二人の言うとおりだ。実は結構体力的に厳しいんだ」
亮輔は力なく笑った。
「うん、ごめんね。キミに頼ってばっかで」
きいは眉を下げて亮輔に笑いかけた。
「いや、俺の方が君たちに頼ってばっかりだよ」
亮輔がふっときいの隣から消えた。彼が立ち止まったことに気がついたきいは走るのをやめて振り返る。
「だって俺は、能力を……」
亮輔が苦しそうな顔できいとあかりを見て何かを言おうと口を開いたその時……
「よしっ!それじゃあ二人ともあたしの手を掴んで……あ、ごめんりょーくんなんか言いかけた?」
あかりが太陽のような笑顔でくるりと振り返った。思わぬ横槍を入れられて亮輔ははっとしたように手を顔の前で振った。
「え、あ、いや。何でもない。それより、知多さんの腕を掴めばいいの?」
ー多分、無意識なんだろうけど……
タイミングよく言葉を被せたあかりを見て、きいはこっそりと苦笑した。
「うん。そうすれば早くここを抜けられるからねっ!さあ、行っくよー!」
やはりあかりは何も勘付いていない様子だった。彼女は二人が同意する前に両手で二人の片手をばっと掴んで走り出した。
「ちょ、あかり急に!って……はっや!」
思った以上の速さにきいの足の回転が追いつかなくなる。
「あかり!待って!足が……ってうわーっ!」
あかりはきいの言葉を聞くことなくスピードをさらに上げた。きいの足は地面から離れ、ついに体が宙に浮いた。恐怖を覚えながらきいは横を見た。流石の亮輔でもあかりのスピードにはついていけないようできいと同じように体を宙に浮かせされるがままになっていた。きいとは逆で亮輔はこの状況を楽しんでいる様で、口元が緩んでいた。それを見てきいは微笑む。
木々が高速できいの視界の上から下へと流れていく。きいは考えることをやめて、目をつぶった。
「ーいたっ」
急に体が地面に叩きつけられた。
「あ、ごめん」
きいが目を開ければ、あかりが笑いながら手を差し伸べてきた。地面に投げ出されていた体をあかりの助けを借りて起こす。
「森、抜けたのか」
亮輔は周りを見渡してあかりに問いかける。
「うん。抜けたと思う。そこに立ち入り禁止の看板があるしっ」
あかりの指の先には、森に入る前に見たものと同じ看板が立てられていた。
「あかり……キミ、その看板を見た瞬間ボク達を掴んでいた手を離しただろ」
きいはジト目であかりを見た。
「え?な、なんのことかなー?」
あかりはすぐさま目を逸らして、亮輔に話題を振った。
「一旦さっちゃん達に連絡してみる?もしかしたらもう抜けててあたし達を待ってるかもっ!」
「抜けてたら、連絡来ているはずだけど……まあその可能性もあるし、俺達が森を出られたっていう報告もした方がいいと思うし知多さんお願いできる?」
「まっかせて!」
あからさまに話を逸らしたあかりを睨んでいるきいを無視しして、あかりは左手につけている腕時計を一回タップする。空中ディスプレイが表示される。あかりは数回タップを繰り返す。
「電話は通じないから、多分まだ森の中っぽいよ!一応あたし達が森を出たことは、さっちゃんにメッセージ送っといた!」
「藤江くん、今から
きいは、はあ……と大きめのため息をついて亮輔に近づいた。
「ひとまず!キミは一旦座って休憩しろ!」
そして亮輔の肩に手を置いて力を入れる。身長差があるためつま先立ちになっていて、手に力を入れているので足がぷるぷると震えている。
亮輔は、必死で自分を座らせようとしているきいを見て微笑む。ゆっくりと亮輔は腰を下ろした。
「よし。ボク達も座ろう」
きいはあかりも座るように促し、全員が座ると続けた。
「今からあっちの案内をしている子と意識を繋げるね」
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