10話 ヒーロー目指してんの?

火の玉と火の鉄拳が同時に放たれるー


「…なっ何やってるんですか!?こんなの、一方的な暴力です!」


直前に、甲高い声が響いた。かるまの動きが止まる。


声がした方を雹牙ひょうがは見る。そこには、息を切らして慌てている様子の沙知と静かに雹牙達を見つめているふうの姿があった。


沙知さちはかるまが彼女を無視して雹牙に再び攻撃をしようと構えた瞬間、雹牙を守るようにその前に立った。


「あ?邪魔すんなよ、部外者が」

「危ないから下がって!」


かるまの冷たい声と雹牙の焦った声が重なる。


雹牙が焦っているのは、かるまが相手が誰であっても容赦しない性格の人間であることを知っているからだ。自分の邪魔をされたとなれば猶更だ。


二人に介入することを止められても、沙知は一歩も引かなかった。


「部外者じゃありません。私はこの学校の生徒として、あなたたち二人のクラスメイトとして、ここに立っています。校内でも授業以外で能力を使うことは制限されているはずです。特に他人に危害を加えるような使い方は禁止されています。だから、攻撃をやめてください。火神かるまくん」


「邪魔、すんな」


かるまが殺気立った。


ーまずい!


次の瞬間、かるまは容赦なく沙知に攻撃を仕掛けた。手から出た火が沙知に一直線に向かっていく。沙知はその場から動かず、目を瞑った。戦う術を持たない彼女は、何も出来ない。かといってこのまま避けてしまえば雹牙に攻撃が当たってしまう。故に動くことをしなかったのだろう。


雹牙は沙知を守ろうとしたが、ちょうど沙知に隠れてかるまが見えず一歩出遅れた。


沙知に火が当たる寸前突風が巻き起こった。それにによって火はかき消される。


「……ちっ」


雹牙とかるまの丁度中間付近に立っていたふうが攻撃を止めたのだ。ふうは風を起こすために突き出した手をそのままかるまに向けた。真っ直ぐにかるまを見つめて微動だにしない。次攻撃をするようなら、本気で止めると言わんばかりに。

かるまはそんなふうをちらりと見て舌打ちをした。


「お前ら、何やってる?」


騒ぎを聞きつけたらしい高鷲たかすと他のクラスメイトがぞろぞろと集まってきた。


かるまはまた小さく舌打ちをした後手を下げて、攻撃をもうしない意思を見せる。それをみた沙知は胸を撫で下ろしてクラスメイト達の元に駆け寄り、ふうも静かに手を下ろす。

依然として雹牙とかるまは対面したままだ。


高鷲が二人の間に立って問いかける。


「……自分達が何をしているのか分かってやったのか?」


雹牙とかるまは何も答えない。


高鷲は威圧的な目をかるまに向けた。


「先に仕掛けたのは火神ーお前だな?」

「そうっすよ。こいつと、話があったんで」


あっさりと認めたことが意外だったのか高鷲は驚いたように目を見開いた後、反省している様子を一向に見せないかるまに眉間を押さえた。


「雹牙。お前は被害者でもあるが、規則を破ったことには変わりない。これで二回目だ、わかってるな?とりあえず、能力検査は中止する。二人は今から職員室にこい。他の奴らは昼食をとってこい」


高鷲が踵を返して歩き出す。雹牙はかるまから逃げるように彼とは目を合わせずに無言でついていった。


◇◇◇


かるまは雹牙の背中を睨み、その姿が見えなくなるとゆっくりと歩き出す。


「ねえ、火神」


けいがかるまの前に立ちはだかった。かるまが繋を睨む。繋は一切ひるまず、睨み返した。


「沙知に何か言うことあるんじゃない?氷野との喧嘩は事情がありそうだけど、沙知はその喧嘩に関係ないよね?止めに入った沙知をあんたは躊躇なく攻撃しようとした。それってー…エジャスターを目指す者としてどうなの?ふうが止めなかったら、あんた関係ない人を傷つけてたんだよ?」

「……」


かるまは、繋と睨み合ったまま何も言わない。


「そうだぞ。お前本当にヒーロー目指してんの?」

「さっきのは、流石に……」

「事情があったとしても、氷野くんや勇気を出して止めに入った調さんに対してああいう態度はよくないよ」

「……俺も、そう思う」

「ちょっと頭、冷やそうよ」

「そうだね~。仲良くしよ~?」

「氷野くんと何があるのか知らないけど、彼を敵視するなら僕は君を敵視させてもらうよ」


繋に続いて、大地、あかり、亮輔、綾人、きい、花、活水かつみがかるまの行動を口々に指摘し始めた。

かるまは、全員に目を移した後、目を逸らして吐き捨てる。


「俺より格下の弱い奴がうだうだ言ってんじゃねえよ」

「は?どう考えてもあんたが悪いのに、そんな言い方……!」


繋がかるまに掴みかかろうとした手を、ふうが止めた。


「繋」

「……っ」


繋は、唇をかんで手を降ろす。ふうは手を離して、かるまに向き直った。


「職員室、早く行った方がいいよ」

「……ちっ。行こうとしたのをてめえらが止めたんじゃねえか」


かるまは誰とも目を合わせずにその場を去っていった。


◇◇◇


「何、あいつ。感じ悪っ!」

「一言も沙知に謝罪しないなんて有り得ない」

「あの人、何考えてるんですかね……」


あかり、繋、沙知が遠ざったかるまの背中を見て呟いた。


「まあまあ~。とりあえず、ごはん行こっ」


ギスギスした雰囲気を中和しようとしたのか、花が穏やかな口調で三人に提案する。


「うん、そうだね。次の授業もあるし、行こっか」


花が三人の肩をぽんっと叩いて、歩き出す。ふうもそれに同意して、皆を促しつつ続く。

三人は不満げな顔をしつつも二人についていった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「さて……どうするか」


雹牙とかるまが去った職員室で一人高鷲は眉間を押さえていた。

先ほどまで二人に長時間の説教をして、反省文を書かせていた。


ー氷野はある程度は反省しているようだったが、問題は火神か……


ため息をついて、高鷲は手元に置いておいていた紙を見つめた。今回の能力検査の結果だ。


入学試験の時に見極めた通り、このクラスの能力は他と比べて秀でるものがある。ただ、まだまだ未熟で能力を完璧に使えている者はいないし、戦闘に関してもまだまだ。それを完璧に仕上げるのが教師としての役割だから高鷲はそこは対して問題視はしなかった。高鷲が気になったのは、彼らのリベリオン、エジャスターに対する認識。


「多くの奴らが危機感を持ってないな」


浮かれているとまでは言わないが、自分の力に対して自信を持っている者が多い。力というのは、一様に能力のことだけではなく、例えば知識、格闘術、分析力といったようなものも含む、エジャスターになる上で必要な力のことだ。自信というものは大切なものだが、今の時点で過剰なほどに持っていれば足元をすくわれる。


一見してみればエジャスターになることに対しての覚悟がある者しかいないように見えるが、その覚悟は簡単に打ち砕かれる可能性が高い。それほどまでに、彼らが思っている以上にリベリオンは強い。力を持ち、それが認められてきた者ほど自分の力を過信して、目の前に立ちはだかる脅威の大きさを見誤る。まだエジャスターになっていないうちは命を落とすことはないだろうが、このままリベリオンと交戦すれば、ほぼ100%の確率で全滅だろう。運良くエジャスターになれたとしても、命を落とす可能性の方が高い。高鷲は、そう判断した。


だからこそ、今後の彼らの動向はしっかりと見ていく必要がある。


「覚悟がない奴は、あるいは中途半端な奴は……」


高鷲は目を閉じ自分の中にある揺るがない覚悟を確かめた後、席を立ちあがって教室へと向かった。

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