2話 クラスメート
「隣、よろしくねえ~」
白髪の少年は、入学式を終えて、早速クラス分けの張り紙で自分のクラスを確認した。1-1組だった。
教室に入って、席に座るとすでに横に座っていた桃髪の少女が声をかけてきた。その顔を見て、白髪の少年は目を見開いた。桃髪の少女もまた、驚いたようにあっと声を漏らした。
「君!確か……」
「あの時の、恩人くん!」
声が重なった。
白髪の少年は、一か月前にこの少女と会っていた。正確に言えば、自分の能力を初めて見せた他人でありー……自分の心を救ってくれた恩人だった。
彼女が自分を恩人といったのには、理由がある。白髪の少年にもまた、彼女を恩人と言える程の理由を持っていた。
「偶然だね~」
「よろしくね。えっと……」
会ったときに名前は聞いておらず、何て呼ぶべきか戸惑っていると、
「
桃髪の少女ー花はふわりと笑った。
その名の通り、花がぱっと咲いたような愛らしい笑顔だった。
「蔓草さん、よろしくね。僕は、
「へ~。恩人君の名前は、氷野くんっていうんだね。先生、どんな人かな~?」
「うーん。入学式で見た人の中の誰かだとは思うんだけど……」
「わかんないよね~」
相変わらず不思議な雰囲気を持つ女の子だな、と白髪の少年ー雹牙は思う。
ガラガラ
乱雑にドアを開ける音がした。
「席には……ついてるようだな」
そういって気だるそうに首の後ろに手を当てながら入ってきたのは、先ほど雹牙が出会った茶髪の男。
彼は片手に名簿を持っていた。教壇に立つとそれを机に置く。
「俺が担任だ。
黒板に大きく自身の名前を書く。整ったきれいな字だった。
そういえば。
と雹牙は思い出す。
自分達を叱ったあの時、スーツ姿であったことを思い出した。入学式の為に学校に向かう途中で騒動に出くわしたのか、騒動を聞きつけてきたのか。後者の可能性が高いな、と雹牙は結論付けた。
入学式にその姿は一切見なかったことが理由の一つ。多分彼は教員の中でも優秀なエジャスターなのだろう。入学式に出ずに、リベリオンの対処に出向けるほどの。
「最初に言っておく」
彼の瞳が雹牙の姿を捉えた。
「浮かれてるやつは、すぐに退場させるからな」
その一言で緩んでいた教室の雰囲気が凍り付いた。息苦しくなる。やはり、彼には威圧感がある。しかも常にそれが出ているわけではない。おそらく彼はその威圧感をコントロールしている。
「エジャスターというものは、そう簡単になれるもんじゃない。運よくなれたとしてもその先に待っているのは地獄だ。中途半端なやつはすぐに死ぬ。生半可な覚悟でここにいると判断した時点で俺はお前たちを容赦なく退学に追い込む」
その言葉は、エジャスターになることの難しさを改めて痛感させるには十分だった。
ごくりと誰かがつばを飲み込んだ音がした。
雹牙は、真っすぐに高鷲の目を見つめ返していた。覚悟なんて、ずっと前に決まっていた。
「……ということで、まずは自己紹介から手短にな」
威圧感が消え去った。生徒の顔が緩む。
今年の新入生は、120人。クラスは10組まである。1-1。教室は、一階の玄関に一番近い場所。人数は12人で、噂によればクラス分けは成績順らしい。つまり、1-1は入学前の時点では成績が優秀だった12人の集まりということになる。
「白石ふうです。ふうと呼んでください。よろしくお願いします」
雹牙はふうと呼んでほしいと名乗った少女を見て、驚いた。銀髪の少女。今朝出会って、市民の避難誘導をしてくれた少女だった。まさか同じクラスだとは。
銀髪の少女ーふうは、微笑んで頭をペコリと下げた。美しく整った顔立ちで、肌は白く、大きな空の色をそのまま映したような青色の瞳。よく見れば、銀髪の髪は編み込んでハーフアップにしていて、瞳と同じ色の青いインナーカラーが入っていた。美しさもある中で可愛さも持ち合わせたその容姿にクラス全員が息をのんだ。
「
はきはきとした声で自己紹介をしたのは、眼鏡に橙色のおさげ髪。ぴんっと背筋を伸ばしていて、その制服には一切の乱れも感じられない。
「
ぼさぼさの緑髪に、目が隠れるほどに長い前髪からちらちらと紫色の瞳がのぞいている彼は、ぎりぎり聞き取れ位の小さな声で自己紹介をした。
「
甘ったるい声でそう言ったのは、水色のセンター分け。筋肉質のガタイが良い体だ。終始甘ったるい声だったのは変わらないが、それが妙に「男に興味がない」という言葉を際立たせた。
「
高音のはつらつとした声で元気よく自己紹介をしたのは、両サイドにお団子を作った黄色の髪の少女。その頭には、細やかに動く猫耳…よりも少し小さな耳があった。注意してみれば、その背中には揺れ動く尻尾があった。
「獣人……?」
誰かが呟いた。
能力者の中には、動物の能力を使いこなせる者も存在してその中のごく数人はその動物の姿になれたり、体の一部がその動物のものであったりすると言う。
彼女もその一人なのかもしれない。
「
あかりよりも大きな声ではっきりと言ったのは、好き放題に跳ねさせた茶髪の少年。その身体は、活水よりも筋肉があり小柄だが逞しさを感じさせた。
「蔓草花だよ〜。よろしくお願いします〜」
のんびりした声でそう言ったのは、先ほど雹牙が話した少女。
「
凛とした声で端的に自己紹介を済ませたのは、紫色のボブ。切れ長の色の目と端正な顔立ちは近寄りがたさを感じさせた。
「
軽く頭を下げたのは、赤髪の少年。赤い瞳が好戦的に光っていた。不機嫌そうな顔をしているが、綺麗な顔立ちをしている事が分かる。
「氷野雹牙です。よろしくお願いします」
頭を下げて顔を上げた時、かるまと雹牙の視線がぶつかった。かるまはなんでお前がここの学校なんだ、なんで俺と同じクラスなんだと言いた気に敵意をむき出しにしてきた。
雹牙はどんな反応をしていいか分からずに、視線をそらした。
「
かわいらしい声で小首をかしげて挨拶をしたのは、ふわふわな緑髪の愛らしい童顔。仕草も声も顔も可愛い女の子のようでよく見間違えることもあるが、その制服は男子のもの。つまり、彼は男だ。
「
丁寧に頭を下げた彼は、まっすぐで清楚な黒髪。頭を上げると、彼は微笑みを浮かべた。目鼻立ちがはっきりとしていて、誰がみてもイケメンだと漏らしてしまうような顔を持つ彼のその微笑はクラス全員の心を射止めた。
「自己紹介は終わったな。今日はひとまずこの後は自由時間だ。ただ、早めに寮に行って荷物整理をするように。荷物はすでに自分の部屋に運ばれているはずだ。夕食時間と入浴時間はちゃんと守れよ。明日は、一限目から能力検査を行うからその準備もしておけ」
「能力検査…?」
花が首を傾げた。
「ああ、そうだ。どうせ知っているだろうからあえて言うが、このクラスは入試の成績上位者12名で構成されている。入試では、筆記、体力測定、能力を披露してもらったが、実際の戦闘などは行なっていない。成績は合計得点とそれぞれの技能において将来性を見越して加点されたものでできている。だが、これから必要になってくるのは戦闘において素早い判断の元敵を確実に倒すことができる力だ。知識、運動、能力がそれぞれ優れているだけでは通用しないこともある。将来性がないからといって退学にすることはないが、もし今回の能力検査やこれからの授業で無理だと自分で判断した場合はすぐに退学届けを出した方が身のためだ」
この学校は、規則などを破ったりしない限り退学になることは殆どないが、毎年退学者が多い。卒業する時にはその生徒数は6分の一になっていることも少なくないという。
「能力検査は、バーチャル空間で行う。お前たちにはランダムに出現する敵を二人一組になって倒してもらう。難易度はそれほど難しくないように設定しているから、なるべく能力を使ってくれ。検査で得たデータはこれからの授業の参考にさせてもらうからな」
ペアは出席番号順、授業が始まる十分前には訓練アリーナに集まるようにと指示を出して高鷲は去って行った。
教室内が騒がしくなった。みんな隣の人と話したり、寮に移動を始めたりしているようだった。
出席番号順ということは、自分のペアは…と氷野は心の中でため息をついてひとまず寮へと向かった。
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