第32話 和尚がツー

 夕べは明け方近くまで泰造と青木が飲んでいたので、私は早々と切り上げて自室で寝ていた。


 起きると二人ともこたつでいぎたなく寝ており、私は「はい、はい、お正月てすよ!」と二人を起こした。


「みさき、頭が痛いよ」

「あれだけ飲めば当たり前だよ」

「和尚が二人で和尚がツー!」

「なによ、それ?」 

「先代の林家三平の持ちネタだ」

「つまんねー」


「みさきさん、お水ありますか」

「冷蔵庫にあるから自分で持って来るっの!」

「はい」

 青木がよろよろと立ち上がった。

「これから初詣に行くからね、ちゃんと顔を洗って来てよ」

「もう行くのかよ」

「うちは毎年、あさいちでお参りしてから、おせちをいただくんじゃなかった?」

「たしかにそれがうちの流儀だったな」

「わかったなら早く支度してっ!」


 みんな顔を洗って着替えをして、近所の八幡神社にお参りに行った。


 泰造が青木に言った。「まず鳥居の前で一礼してくぐる!」


 私たち3人は一礼して鳥居をくぐった。


「次は参道の端を歩くのだ!参道の中央は神様が通るところだからだ!」


 そして私たちは境内に行き、お賽銭 (さいせん) を賽銭箱に入れた。


 鈴を鳴らして2回深くお辞儀をして、2回柏手を打つ。私たちは泰造を真似して同じことをした。


 そして手を合わせたままお祈りをして、1回深くお辞儀をする。


 泰造が私たちを見て「これが二拝二拍手一拝だ!」とドヤ顔で言った。


「知ってるわっ! それくらい!」


 その後、みんなでおみくじを引いた。

 まず青木が引いて、末吉が出た。


「青木、末吉か。昔、清水アキラがいたハンダースというグループに鈴木末吉って奴がいたな。末吉だからあまり目立たなかったが。ハンダースは想い出の渚ってカバー曲がヒットしたな。あの頃から清水アキラはモノマネしてたな」


「へー、そうなんですか」

「泰造も引きなよ」

「おお、わかった」

泰造がおみくじを引いて広げると、そこには大凶の文字が!


「何だよ大凶なんて入れるなよ!」

「すごい確率だろうね、それを引くの」

「今年の漢字の、税、が出てくるくらいの格率だな」

「税なんかおみくじにないわっ!」


 最後に私が引いた。驚いた。大吉だったのだ。

「なんだ、お前だけ大吉って、みんなの不幸を吸い上げて、自分だけ幸せになるのか?」

「そうじゃないよ。私が大吉だから、この3人が平均して吉くらいになるんだよ。それで良くね?」

「いや、平均したら末吉だ。今年一年みんな末吉だ!」


「テンション下がること言うなっ!」


 私たちは境内の中の木の枝におみくじを結んで神社を出た。


 帰る道すがら、泰造が「最近は電線に凧が引っかかってないな」と言った。


「電線に引っかかてたんてすか?」

「ああ、普通に引っかかってたよ。年末年始のテレビCMで電線に凧を引っ掛けないようにって注意喚起してたもんな」


「電線に凧は見たことないな」

「俺らの頃はゲイラカイトが流行ったな。昔の紙製の凧と違って、ビニール製でエイみたいな形をして黄色い目玉が2つついてたな。それがすごく高く揚がるんだよ。だからゲイラカイトを揚げて電線に引っかけた奴がよくいたんだ。結構高かったから、みんながっかりしてたな。


今の子は凧揚げなんかしないだろうしな。で、帰っておせちを食べて、訪ねて来た親戚にお年玉をもらったら、その足で近所のおもちゃ屋に行くのが至上の楽しみだった。


うちは親戚が多かったから、かなりもらえた。今の子みたいに、お年玉を親が預かるというシステムがまだなかったしな。もし預けてたら全部親に使われてただろうな」


「僕もそうてすよ。もらったの全部使わずに預けてたら全部使われてましたよ。学費の足しにしたと言われたら返す言葉もないし」


「親はそういうことするんだよな」

「あ、泰造にも子供の頃、お年玉を預けなかったけ?」

「うん、あのお金は中央競馬の新年の金杯ってレースに使ってみんな消えた。今年の運だめしだったんだけどな」

「運だめしに私の金を使うなぁっ!」

「まあまあ、失ったものは何かになって戻って来る。失った金は青木になってお前に戻って来たんだ。幸せだろう」


「じゃあお父さんがみさきさんのお年玉を使い込んだお陰で、僕らは知り合えたんですね!」

「んなわけねーだろ!」

「もう。正月から怒るな。今日は帰っておせちを食べて、夜は芸能人かくし芸大会でも見よう!!」

「やってないわっ!」





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る