第35話 尾崎豊

 今日は泰造の誕生日で、どこかレストランでも予約しようか、泰造のおごりで、と言うと、家でゆっくりしたいと言うので、私は会社帰りにホールケーキを買って、ピザの出前を頼んで、一緒にいた青木がシャンパンを買って家に帰った。


 ピザが届いて、リビングにピザとホールケーキ、シャンパングラスを並べると、

「ありがとな」と泰造は私たちに言った。 


そしてケーキに6本立てた(60歳近いから)ローソクを消して、シャンパンでおめでとーと乾杯した。


 そしてピザを食べながら、シャンパンを飲んだ。青木が買ったシャンパンは割と高かったのでうまい。


「お父さんと同い年の芸能人って誰がいますか?」と青木が言った。


「爆笑問題の2人と一緒なんだが、田中の方は早生まれだから学年は一個上かな。ヒロミもナンチャンま早生まれだな。あとはドリカムの吉田美和とか、YOSHKIとかいるけど、なんといっても尾崎豊と同い年なんだよな」


「へー、生きてたらそんな歳なんだ。若くして亡くなったんでしょ。だから若いイメージがある」

「たしかに。でも俺と同い年の奴らは尾崎豊をカリスマだと思ってなかった。


尾崎を神格化させたのは俺よりも下の世代だ。俺たちは尾崎を見て、なんで同い年の奴に説教くさいこと言われなきゃいけないんだと、思ってた。


嫉妬もあったんだろうな。同い年なのにロックアーティストとしてバリバリ売れてるからな。


でも尾崎豊の曲は2、3個下の世代には刺さりまくってたみたいだな。


『卒業』って曲の、♫夜の校舎窓ガラス壊してまわった♫とか、

『15の夜』の、♫盗んだバイクで走り出す♫とか、


ここだけ聞くと犯罪者だな。


『15の夜』には、♫校舎の裏 タバコをふかして 見つかれば逃げ場もない♫ なんて未成年喫煙がうるさくなった今では考えられないもんな。


これも『15の夜』だけど、♫自動販売機 百円玉で買える温もり熱い缶コーヒー握りしめて♫って歌詞があるけど、今は百円玉一枚じゃ温もりも買えないもんな。時代は流れているんだよな。


 その後、尾崎はニューヨークに移り住んだりしたけど、20歳を過ぎた辺りで、反抗するものが見えなくなったんだろうな。大麻で捕まったこともあって、一時期失速したんだ」


「そうなんですか!」青木が驚いた顔をした。

「昔も結構大麻で捕まった芸能人はいたんだ。井上陽水とか研ナオコとか美川憲一とか」

「へー、そうなんだ」


 その後は、『核』とか『LOVEWAY』と言う曲で新たな方向性を見出して、俺もその頃には大人になって、尾崎の曲も偏見なく聴けるようになった。


今でもカラオケで『I LOVE YOU』とか『Oh My Little girl』ドラマの鈴木先生のエンディング曲でカバーされてた『僕が僕であるために』とか歌うしな」


「あ、聴いたことあるよ、泰造が歌ってるの」


「うん。そうやって尾崎との距離が縮まった時に、尾崎豊は26歳で死んでしまった。亡くなった時の写真を見たが、顔を殴られたみたいでボコボコに腫れていた。


全裸でどこかの物置にいたのを住人が見つけて救急車を呼んで病院に運ばれたがが帰らぬ人になった。


尾崎が死んでもう40年も経つなんて信じられないな。若くして亡くなった者は若いままだ。俺は歳を取ってくばかりなのにな」


「泰造」

「済まんな、こうして誕生日を祝ってもらってるのに、湿っぽい話になってしまって。

じゃあ天国の尾崎豊のためにもう一度乾杯してくれるか?」

「はい」青木が言った。


「乾杯!」

天国の尾崎豊さんに届けばいいなと思った。

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