第55話 親父の一番長い日
その後、青木はご両親を乗せて、泰造は自分の車に私と祖父を乗せて、写真館に向かった。
写真館に着くと、私たちはウェディングドレスとタキシードに着替えるのだが、
私の髪のセットに時間がかかってしまい、
みんなを1時間待たせてしまった。
「お待たせして、すみません」
私が言うと、
「そんなに待ってないわ。みさきさん綺麗よ」と向こうのお母さんが優しく言ってくれた。
いい人だ。嫁姑問題もないんじゃないか。
泰造は母の遺影を抱えていた。
亡くなった母も大事な家族だ。
そしてステージみたいな所に、
私と青木が真ん中に立ち、
左側に青木家が、右側にうちの家族が立ち、
プロの写真技師の前で、それぞれが笑顔を見せて、写真に写った。
写真撮影の後に、
祖父と向こうのご両親が話してる間に、
泰造が青木と話していた。
「昔、さだまさしが『親父の一番長い日』という歌をリリースしてな。まだレコードの頃で、その曲はシングルなんだけど、
12分半もあったから、LPレコードに収録されたんだ。
その歌は娘が生まれてからの出来事、
お宮参りや七五三や小学校の入学式、運動会や学芸会、初恋のことまで歌詞に折り込んで、
そして娘が成長して、大人になって結婚相手を家に連れて来る所がクライマックスなのだが、
歌詞に『奪っていく君を 君を殴らせろと言った』というフレーズがあって、
当時は娘と結婚する男を殴るという風潮があったんだ。今考えると怖いな」
「本当怖いですね。令和で良かったです」
「でもまあ相手の父親に殴られるくらいの覚悟で結婚しろってことなんだろうけど、
もう覚悟は決まってるだろうな。これからはみさきとお腹の中の子供の父親なんだから」
「はい、絶対に幸せにします」
「よし、じゃあ締めに小松政夫と伊東四郎のアレをやろうか」
私は「やめてよ、こんな所で」と止めたが、
泰造は構わず「ニンドスハッカッカ!」
と叫んだ。
青木も「ハー、ヒジリキホッキヨッキョ!」と返した。
2人のやりとりを祖父と向こうの両親がキョトンとして見ていた。
それでも2人は、
「ニンドスハッカッカ!」
「ハー、ヒジリキホッキヨッキョ!」と何度も続けた。
私は馬鹿な2人に呆れながらも、
これからお腹の子供と合わせて、
良い家族になれるだろうなあ、と思った。
古き良き令和の家族に。
了
昭和40年生まれだ!馬鹿やろコノヤロ!父、泰造の昭和レトロ噺 misaki19999 @misaki1999
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます