第52話 解明しない方がいいもの

今日、体調が優れなかったので、病院に行った。すると思いもしないことを医師から言われた。

「妊娠3ヶ月ですよ」

頭の中が真っ白になった。 


まさか妊娠って。

そんなこと思いもしないから簡易キットで検査もしなかった。


でも青木、あの晩、ゴム着けてなかったよな。そのことは思い出した。


まずは青木に電話した。

私の妊娠に驚いていたが、それは良い方向での驚きだった。順番が逆になったけど、これから色々と準備して行こうと建設的な意見まで言われた。


青木のくせに。

でもうれしかったのは確かだ。

後は泰造に伝えなければ。


1人で晩酌をしていた泰造に、

紅茶のペットボトルを手にテーブルに着いた。


「なんだ、みさき今夜は飲まないのか?」


「うん、あんまり飲む気しなくて」


お腹の赤ちゃんの為だって言わなきゃ。

でも言い出しづらい。しばらく私が迷っていると、泰造が唐突に、


「みさきはツチノコって知ってるか?」

と言った。

今夜だけは泰造の唐突さがありがたかった。


「聞いたことはあるかも」


「昔、ちょっとしたブームになったんだが、へびだけど体長が短い分、胴体が太くて、ジャンプして人に襲いかかったりするらしい。


当時は捕まえた人には懸賞金まで出たんだ」


「本当にいたの?」


「まあ、いないだろうな。いた方が面白いけど。


あとイギリスのネス湖のネッシーは有名だけど、


北海道の屈斜路湖にもクッシーっていう恐竜の生き残りがいるって、大騒ぎになったこともあったな」


「クッシーって、なんか可愛い」


「あと広島にはヒバゴンって雪男みたいなデカい類人猿が、何度も目撃されてニュースにもなったな。


たしかその頃、日本の漁船がニュージーランド沖で恐竜の死骸を釣り上げたってニュースになったな。


結局はウバザメの腐敗した死体だったらしいが」


「そうなんだ」


「あと、俺が小学生の時に流行ったのが、こっくりさんとかエンジェルさんといった憑依ものだな」


「憑依?」


「紙に鳥居とひらがな50音と、はい、いいえ、あとは数字とかを書き込んで、


紙の真ん中に十円玉を置いて、仲間みんなで人差し指を十円玉につけて、


コックリさん、いらして下さいと言うと、その十円玉が自然に動きだすんだ。


で、コックリさんに質問すると、十円玉が50音の上を動いて答えてくれるという」


「ガチで動くの?」


「まあ、仲間の誰かが動かしてるとか、筋肉が緊張し、収縮して動くとか、


集団催眠にかかって何かに導かれるように動かしてしまうとか、いろいろ言われたけど、


まあ、解明されない方が夢があっていいかもな。クッシーもヒバゴンもツチノコも」


「そうかもね」


今だ。私も唐突に言おう。


「泰造さあ、私、妊娠してるみたいなんだ」


泰造は飲んでるビールを吹き出した。


「なんだよ唐突に」


いつも唐突なのは泰造の方だろう。

 

「今日病院で言われた。妊娠3ヶ月だって」


「そうか」

そう言ってしばらく泰造は黙り込んだ。


「結婚するんだろ」


「まあ、そのつもりだけど」


「準備、急がないとな。お腹が目立つ前に」

そう言って泰造は笑った。


その笑顔に私は涙がこぼれた。

泰造に泣かされるなんて。


「いよいよ、俺もおじいちゃんか」

「そうだね」

私は涙を拭きながら、そう言った。

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