第37話 シャービック
夜、仕事から帰ると泰造が冷蔵庫の前で腕組みをして立っていた。
「どうしたの?」
「今日はハウスのシャービックを作ってみたんだ」
「シャービック?」
「たまたま100円ショップで見つけて、なつかしいから買ってみたんだ。
作り方は簡単で、シャービックの素を水か牛乳で溶かして、製氷器に流し込んで冷凍庫に入れるだけだ。もう固まったかな」
泰造が冷凍庫を開けると、製氷器の中にピンク色のと緑色の液体が凍って固まっていた。
「あ、私着替えてくるからちょっと待って」
私が部屋着に着替えてキッチンに戻ると、泰造が器にさっきのシャービックを移して置いてくれていた。
「なんかおいしそう」
「子供の頃はよく作ったものだ。ピンクのがイチゴ味で、緑色のがメロン味だ」
「いただきまーす」
私はそのキューブ型のシャービックをスプーンで1つ口に入れた。
「あ、なんかクリーミー」
「今回は牛乳で素を溶いて作ったからな」
シャービックは甘くてひんやりして、なんか昭和レトロなおいしさだった。
「他にもハウスのプリンとかフルーチェとかゼリエースとか、昔はおうちで作るスイーツがいろいろ有ったな。
ハウスのプリンを家で作った時、やはり器に移して冷凍庫に入れて、固まるまで二時間ぐらいかかるんだけど、
あの待ってる時間が長くて長くて。
あの2時間は今だと12年ぐらいに匹敵するな。
プリンが出来上がるまでに、オリンピックが三回と、その間にワールドカップが二回あるみたいな」
「かなり盛ってない?」
「いや、本当にそのくらい長く感じたんだよ。今なら待ち時間があっても何かしらやることがあるけど、
子供の頃はただ純粋に、何もせず待ってたから。待つだけの時間は長く感じるんだ」
「まあ、たしかに」
「今はあっという間だ。歳を取ると時間の流れが早くなるな」
「泰造、おじいちゃんみたいなこと言うなよ」
そういえば昔よりもシワも増えたし、老いた感じもする。娘としてはやはり寂しい。
泰造にはいつまでも元気でいて欲しい。昭和のスイーツを食べながらそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます