第35話 伊集院光
ある晩、青木と電話でしゃべっていたら、夜の10時を回っていた。リビングに行くと、泰造が水曜日のダウンタウンを観ていた。
パネラーで伊集院光が出てしゃべっていた。
それを見て泰造が、
「みさきは伊集院光って知ってるか?」
「うん、知ってるよ。デブタレでクイズ番組とかよく出てるし」
「デブタレとか言うな。伊集院光は年下だけど俺にとってはカリスマ的存在なのだ」
「なんで?」
「最初の出逢いはたしかビートたけしのオールナイトニッポンで、たけしさんがお休みの時に、
たけし軍団が留守番で番組をやってて、あるコーナーで芸人さんとか素人がラジオで一発芸をやるのだが、
そこにたしか素人という触れ込みで伊集院光が出て、一言言ったんだ。
『人魚はホントは生臭い』
その言葉に俺は頭をかち割られるほどの衝撃を受けたのだ!
たしかにそうだ。きれいな女の人に見えても半分、魚だからな。信実というものは残酷なものだ。
その印象が強烈に残ってて、俺は伊集院光って名前をすぐに覚えてしまったんだ」
「そうなんだ」
「で、しばらくすると伊集院光はオールナイトニッポンの二部のパーソナリティになった。
その頃は『オペラの怪人』が彼のキャチフレーズで、オペラ歌手というキャラ設定だったな。
ホントは落語家で三遊亭楽太郎の弟子で三遊亭楽大という名前だったが、それをひた隠しにしたのだ。その後、落語家は廃業したんだが」
「落語家さんだったんだ」
「そうそう。あ、その番組では現実にはいない架空のアイドルをプロデュースしたんだ。まるで本当に存在するかのように、リスナーたちが盛り上げて。
それが芳賀ゆいだ。バーチャルアイドルの走りだろう。
CDも出して小ヒットした。『野球下手なくせに、男の方が好きなのね』ってフレーズが可愛かった。歌は当時のアイドルの寺尾由美で、曲はたしか奥田民生が作ったんじゃなかったかな」
「バーチャルなのにすごいね」
「うん、人気あったしな。写真集も出たし。俺も番組のヘビーリスナーだったから応援してたな。
で、そうこうするうちに、ニッポン放送の22時からの、恐怖のやっちゃんってコーナーが大当たりした三宅裕司のヤングパラダイスが終わり、別なパーソナリティの番組がすぐ終わってしまったので、
その枠で『伊集院光のOh! デカナイト』って番組を始めるのだが、
俺はそれを毎日録音して繰返し聴いていたのだ!SONYのCHFの120分テープを使って」
「おっ、カセットテープが出てきたね。なんか今日の泰造語りが熱いな」
「まあな。そのOh! デカナイトは、最初の30分がフリートークで、それが面白くて面白くて。何度もくり返して聴いたもんだ。
他にコーナーもあって、お弁当つけてどこ行くの? 通称おべどこってのが人気あったな。
これは好きな女の子に、自分のほっぺたについたご飯粒を『お弁当つけてどこ行くの?』 って可愛く言って取ってもらい、
そのご飯粒をその子が食べてくれたら、もう死んでもいい的な、女の子が自分にして欲しい妄想をハガキで送ってもらうっていうコーナーだったな。
替え歌のコーナーもあって、YMOのライディーンって、歌詞がないんだが、♫ひじきー煮物の王様、ひじきー♫って唄ってたのが笑えたな。
あとはベースボールクイズっていう、ヒット、二塁打、ホームランの順に難易度が高くなるクイズをリスナーが選んで、
それに答えると出塁出来て、点が入ると賞金がもらえるが、
クイズを三回はずすとスリーアウトでゲームセットになるというクイズも人気だったな」
「そうなんだ」
「あと番組内で小室ファミリーだった久保こーじと組んだ荒川ラップブラザーズも良かったな。略してARB。今は俳優やってる石橋凌のARBってバンドをもじったんた。
CD シングルのアナーキー•イン•AKやアルバムのARAKAWA魂も買ったな。我慢エブリバディは本当エンドレスリピートして聴いたもんだ」
「YouTubeにあったら聴いてみよっ」
「そのうち伊集院光はテレビにも進出して、土曜日の夕方に日テレで、たしか片岡鶴太郎の『鶴ちゃんのプッツン5』が終わった枠で、
『ヒューヒュー』って番組を関根勤や東京パフォーマンスドールと始めたな。
その番組にはまだTEAM ZEROっていうコンビを組んでた頃の山崎邦正、今の月亭方正が出てた。
あと篠原涼子は出てなくて、穴井夕子、市井由理……市井由理は後にEAST END✖️YURIで、DA.YO.MEを大ヒットさせるのだが、そんなメンバーがいた東京パフォーマンスドールの女の子たちの口に水を含ませて、
ギャグに笑って水を吹き出したら負けっていう、最近のバラエティでも見られる企画を、初めてやったのがこの番組じゃなかったかな。
その後、伊集院光はクイズの解答者としてテレビでよく見かけるようになり、
そして俺は今でも時々、月曜の深夜にTBSラジオでやってる、伊集院光の深夜の馬鹿力って番組を聴いているのであった。めでたしめでたし。
まあ、今回は熱く語ったから特にオチは無しな」
「わがままだな」
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