第23話 タコが言うのよー
「牛タンのローストビーフってうまいな」
「うん」
私たちは青木の仙台土産の牛タンローストビーフを食べながら、晩酌をしていた。
「みさき、何を飲んでんだ?」
「『ほろよい』のハピクルサワー。甘くてアルコール度数低いから飲みやすいんだ」
泰造はいつものハイボールを飲んでいた。トリスの4リットルペットボトルから小さな計量カップに注いで、30ml分を氷のいっぱい入ったサーモスの小ぶりのコップに入れてソーダを注ぐ。この量が自分には1番美味いそうだ。
「そっか。昔、俺が好きだったチューハイは、サントリーのタコハイだ」
「タコハイって、今、梅沢富美男と田中みな実がCMしてるよね」
「あれとは全然違う。一度飲んでみたが味が全く違った。あれは焼酎のソーダ割だ。
昔のタコハイは、120mlくらいの小さな缶に可愛いタコのイラストが描かれていて、味がグレープ味だった。
CMで田中裕子が『タコなのよ、タコ。タコが言うのよ』っていうセリフが大流行したんだ。
その頃のサントリーはチューハイはタコで、ビールはペンギンを推してたんだ」
「なぜ、タコとペンギン?」
「わからん。でもCMでアニメのペンギンが松田聖子のSweet Memoriesって曲……これはガラスの林檎たちって曲のB面だったんだけど、こっちの曲の方が有名になったな。
で、それをバックに、昔の恋を思い出してアニメの可愛いペンギンがBARで昔の恋を思い出して涙をこぼすんだよ。そりゃ見ちゃうだろう!」
「見るかもしんない」
「で、タコに戻るが、ライバル会社のタカラCANチューハイは、CMにたこ八郎を起用してたし、
その何年か前には、樋口可南子……今はSoftBankのCMのお母さん役だけど、
彼女が『北斎漫画』って映画で大ダコと濃厚なラブシーンをして話題になったし、ちょっとしたタコブームだったのかもな」
「大ダコと濃厚なラブシーンって、昭和はなんでもありか?」
「そうだ、なんでもありなのが昭和だ。それで、たこ八郎は最後は酔っぱらって海水浴中に亡くなってな」
「たこさん、海に帰っちゃったんだ。かわいそう」
「うん。俺はムー一族ってドラマで、チンピラ役の細川俊之の舎弟で出ていたたこ八郎を見て以来、ファンだった。
細川俊之がたこ八郎の頬をひっぱたくタイミングがすごく面白かったんだ。細川俊之はアニメのあしたのジョーの力石役をやってたな。
だから亡くなったことがすごく寂しくてな。
当時レギュラーだった笑っていいともで、タモさんがたこ八郎が亡くなったことを伝えてたのを思い出すな。
たこ八郎は享年44歳だった。波瀾万丈の人生だったな。本名、斉藤清作は子供の頃に左目を損傷してほとんど視力がなかったのにボクシングのリングに立ち、カッパの清作と呼ばれ、日本フライ級チャンピオンにまでなった。
引退後は由利徹の弟子になって、たこ八郎って名前をもらったんだ。たこは由利徹の行きつけの店から取ったらしい。
そしてタレントになって色んなバラエティやCMに出てた。売れっ子だったんだ。
酒飲んで酔っ払って海に入って泳ぐなんて、たこ八郎らしいけど、それにしても亡くなるには若過ぎた。俺はいつしかたこ八郎の歳を14も越えてしまっていたのだ!」
「泰造も体に気をつけないとね」
「だから酒も飲み過ぎないように、ちゃんと計って飲んでる。たこさんを反面教師にして申し訳ないが。今夜はたこさんにこの一杯を捧げるかな。たこさんの座右の銘『迷惑かけて、ありがとう』を心に浮かべながら」
泰造はコップを手に持って、おでこのあたりまで上げて、目を閉じた。
たこさんが天国で泰造の一杯のハイボールを呑んでくれるといいな。
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