第19話 伊東四郎と小松政夫

 泰造は私と青木を行きつけの居酒屋に連れて行ってくれた。以前、酔い潰れた泰造を迎えに行った店だ。


そしてカウンター席に座った。大将のシゲさんも話に加わるからだ。店はテーブル席が2つ埋まってるくらいで、それほど忙しそうでもなかった。


「彼がみさきの彼氏の青木くん」と泰造がシゲさんに紹介した。


「は、初めまして。青木です。よろしくお願いします」また斜め45度に頭を下げた。


「やだなぁ、そんなに固くならないでよ。そんな敷居の高い店じゃないんだから」シゲさんは笑って言った。


「じゃあ生3つ」泰造が言うと、しばらくして「はいよ」と中ジョッキが3つ出てきた。


 3人で乾杯した後、泰造は一気にジョッキの半分ほど飲んだ。


 そして唐突に、

「さっきいとうせいこうの話をしたから、

 今度は伊東四郎の話な」と言い出した。


「何それ、強引なんだけど」


「その強引さがいいんだよ。それで青木くんね、昔、みごろ食べごろ笑いごろってバラエティ番組があったんだ。


伊東四朗と小松政夫、キャンディーズとかが出ていて、いろんなキャラクターがヒットしたな。

まずはデンセンマンの電線音頭だ!」


「ありましたね。あれは面白かった」シゲさんが言った。


「うん、面白かった。伊東四朗扮するベンジャミン伊東と電線軍団が突然現れて、


まずはキャンディーズのメンバーが、用意されたコタツの上に乗って、


電線にすずめが3羽とまってた……と歌って踊るんだ。


そしてラストはデンセンマンが本家の歌と踊りを見せて締めるという」


「へー、そんなのがあったんですか」青木が言った。


「そうそう。あとは小松政夫が場がシラケることを言うと、急に手に変な鳥のパペット人形を持って、


シラケ鳥、飛んで行く 南の空へ みじめみじめ、


と哀愁たっぷりに歌って、たしかレコードにもなってヒットした気がするな」


「へー」私が言った。


「小松政夫さんも亡くなって寂しいですよね」シゲさんが言った。


「うん、寂しい。昭和は遠くなりにけりだね」泰造は遠い目をして言った。


 本日のおすすめのホッケの焼いたのと、刺し盛りと焼き鳥が出てきたので、私たちはビールを飲み干してお代わりした。


「あと伊東四朗と小松政夫は笑って笑って60分って番組もやってて、


これは同世代でもわかる人しかわからないのだが、伊東四朗と小松政夫の言葉のキャッチボールをするんだ。


小松の親分さんってコントで、伊東四朗が『ニンドスハッカッカ!』と叫ぶと、


小松政夫が『マー、ヒジリキホッキョッキョ!』って返すんだ」


「ありました、ありました。よくそのセリフはっきりと覚えてましたね」シゲさんが感心したように言った。


「なにその言葉、全然意味がわからないんだけど」と私が言った。


「なんか小松政夫の小学校の時の先生が、そんな言葉を言ったらしいんだが、意味はわからないそうだ」


「なんだかな」


「でもあれから45年くらい経ってるのに、これだけ印象に残ってる言葉も珍しいな。ではシゲさん、『ニンドスハッカッカ!』」

そう泰造が言うと、シゲさんが、


「マー、ヒジリキホッキョッキョ!」と返した。


「おー、やっぱりシゲさんすごいな。じゃあ、次は青木な」泰造は酔っ払っていた。


「あ、あ、はい」青木はもっと酔っていた。


「じゃあ、ニンドスハッカッカ!」


 すると青木が「ま、ま、マー、ヒジリキホッキョッキョ!」と返した。


「青木すげーよ」泰造が言った。

「青木さん、初めてなのにたいしたもんですよ」シゲさんも感心して言った。

 

 そんなたいしたものではないと思うけれど。


「じゃあ青木もう一回! ニンドスハッカッカ!」


「マー、ヒジリキホッキョッキョ!」


「ニンドスハッカッカ!」


「マー、ヒジリキホッキョッキョ!」


「ほれ、ニンドスハッカッカ!」

「マー、ヒジリキホッキョッキョッ!!!」


 いつまでやってんだ、こいつらはと思いながらも、2人が仲良くやれそうで良かったと思った。


 青木が私にだけ見えるように、親指をグッドと立てて見せた。私も、いいね!と親指を立てて返した。


 この宴がいつまでも続けばいいのにと、私も酔っぱらいながらそう思った。




           

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