第17話 昔の喫茶店

 今日仕事が休みで家にいた泰造に、駅前の喫茶店にいるから傘を持って来てくれと電話した。


 ゲリラ豪雨の中、ずぶ濡れになりながら泰造は『下弦の月』という喫茶店まで来てくれた。


 白を基調にした内装で、シックで品のある店だった


「みさき、コンビニで傘買って帰ればいいだろ」


 泰造は私に傘を渡し、テーブル席に座った。


「悪い悪い。でもうちにこれ以上ビニール傘を増やしたくないし」


 うちにはビニール傘が20本近くある。処分すれば良いのだが、どうやって捨てればいいのかわからない。友達がコンビニや電車の中でわざと忘れて来ればいいじゃんと言うが、それはモラル違反だと思うし。


「おわびになんかおごるからさ」


「当然だ」


 泰造は濡れた白いウィンドブレーカーをハンカチで拭いた。その下は部屋着のジャージだ。

 

 それが終わると泰造は立てかけてあったメニューを開いて、その中にあった特製イチゴのパフェをウェイトレスさんに頼んだ。

 

 泰造パフェ似合わないなと思った。

 私はカフェラテを頼んでいた。もうかき混ぜてしまったが、ラテアートでかわいい猫の絵が描かれていた。


「しかし最近の喫茶店は小綺麗になったな。

昔の喫茶店はもっと猥雑で、たいていテーブルの上に占いの機械が置いてあったな」


「占いの機械?」


「上に灰皿がついた球体の機械で、星座別にお金を入れる所があって、


自分の星座のとこにお金を入れてレバーを引くと、占いが書かれた紙が巻物みたいに丸まって出てきたんだ」


「へー」


「占いの他にはピーナツが出てくる機械もあったな。


プラスチックの小さなトレーが機械の上についていて、それを取ってピーナツが出てくる所に置いて、お金を入れてレバーを引くと、ピーナツが何粒か出てきたんだ。でもコーヒーとピーナツは合わない気がするが」


「へー、そんなのがあったんだ」


「うん。あ、そうだ。喫茶店にはその店オリジナルのマッチがあって、


いろんな店のマッチをコレクションしてる奴も結構いたな。シンプルに店名が書かれているだけのとか、あとは抽象画のようなものが描かれていたりしたな。


それと喫茶店といえばナポリタンだ!」


「そうなのか?」


「あの味がなつかしくて、突然食べたくなることがあるんだ。ケチャップで炒めた、タマネギとベーコンの入ったシンプルなやつ。ランチメニューだと、それにコーヒーとなぜかゆで卵がついてる店があったな。ゆで卵が、金属のゆで卵置き器みたいなのにちょこんと乗ってた。ああいうのって、全然みなくなったけどな」


「たしかにナポリタンはおいしよね」


 ウェイトレスさんが特製イチゴのパフェを持ってきてくれた。


「こっちも美味しそうだな。コーンフレークでカサ増ししてないのが好感持てるな」


 泰造がごくりとツバを飲み込んで、スプーンで食べようとした時に、


喫茶店の扉が開いて人が入って来た。

 

 その人はまっすぐ私たちのテーブルに

向かって来た。そして私の隣の席に座った。


 私が泰造に彼氏を紹介しようと、

 呼び出したのだ。

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