第16話 マンガ肉
夕食は泰造が昨日から仕込んでいた豚の角煮だった。それが肉がとろけるようでとても美味しい。角煮を2人で食べながら、缶ビールを飲んでいると、
「みさきは子供の頃、マンガに出てきた食べ物で食べたかった物ってあるか?」
「えっ、そんな急に言われても思いつかないな」
「俺はチビ太が持ってたオデンが食べたかったな。ちび太はおそ松くんってマンガにイヤミって出っ歯のキャラと一緒に出てるんだけど……」
「ちび太はおそ松さんに出てるから知ってるよ。SnowManで実写で映画化されたし。チビ太役は女の子がハゲヅラつけてやってたけど」
「そうなのか! それは見てみたいな。あ、それでイヤミはシェーってポーズするんだけど、家の古いアルバムにシェーをして写ってる写真があったら、そいつは間違いなくオヤジだ 」
「泰造もあるよね」
「あるある。白黒のとカラーのと両方ある。それでちび太はいつも三角と丸と長方形の、
少し抽象的な具が串に刺さってるオデンを持っているのだが、それが美味そうで美味そうで」
「おそ松さんで、大人になったちび太はおでん屋さんやってるしね」
「あと他には、はじめ人間ギャートルズで、ゴンって少年の父親がマンモスをつかまえて、
なぜか石斧でぶっ叩くとマンモスが綺麗に輪切りの肉になるのだが、
そのマンモス肉をゴンの家族……どてちんを含む……が、かぶりつくシーンがあって、それが美味そうで美味そうで。
あとはよくマンガに出てくる、通称マンガ肉と呼ばれる、骨のまん中にこんもり肉がついていて、
骨の両端を両手でつかんでかぶりつくのだが、 これがまた美味そうで、美味そうで」
「美味そうで、美味そうで、が多いな」
「うっさいわ。あと他にもアルプスの少女ハイジが食べてた、とろっとろのチーズフォンデュ的な物や、
ハクション大魔王の大好物の、皿に山盛りにされたハンバーグとか食べたかったな」
「ほいほい(なんかどうでもよくなった)」
「で、その真逆で食べたくない物もある」
「食べたくない物?」
「まず、お魚食わえた野良猫おっかけて、裸足でサザエさんがつかまえて、野良猫から取り返したお魚は食べたくないな」
「あれ本当に取り返したの?」
「わからん。謎だ。
あとは、あしたのジョーで階級が軽い矢吹ジョーと試合するために、
ものすごい減量を力石徹がするのだが、ジムの水道の蛇口全部が針金で縛られて水が出ないようにされていて、
思い余った力石はトイレの便器にたまった水を飲もうとするのだが……そのトイレの水は飲みたくないな」
「当たり前じゃん。誰が飲むかよ」
「力石も思いとどまったけどな」
なんか食事中に汚い話になったので話を変えて、
「あ、そうだ。この豚の角煮の作り方教えてよ。私がお嫁に行く前に」と言った。
「えっ」
あ、しまったと思った。この話題を振ると、泰造はナーバスになるんだった。
「嘘だよ、まだまだ先の話だから」
「そっ、そうだな」
泰造の口数があからさまに減り、無言のまま2人で角煮を食べてビールを飲んだ。
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