第11話 ケロリン
泰造が風邪で寝込んでしまった。夕べ長風呂の私を外で待ってて湯冷めしたのだ。
だから先に帰っててと言ったのに。
でも私のせいでもあるし、今日は日曜で休みだから一応看病することにした。鍋でタマゴ粥を作った。
「おとっつぁん、お粥が出来たよ」
「おお、いつもすまないねえ」
「それは言わない約束でしょ」
「ああ、ハナ肇とザ・ピーナツのコントのようだ。シャボン玉ホリデーだ」
「意味わからないんだけど。お粥食べたらちゃんとお薬飲んでよ。薬箱置いとくから」
「おお、悪いな」
泰造はタマゴ粥をすすりながら、
「昔の薬箱には変なパッケージの薬がいろいろ入っててな」
「そうなんだ」
「置き薬といって、月に一度薬屋さんが補充にやってきて、使った分の薬代を払うシステムなんだ。
まずはケロリンって薬があって、女の人が額を押さえて、男が歯痛を訴えてるような痛々しい絵柄だったな」
「へー」
「他には赤玉って胃腸薬もあったな。たいてい布袋様がお腹を出してる絵だった」
「ほーほー(ちゃんと聞いてない)」
「(病んでるのに意地になって)熊の胆(い)ってのもあったな。猛々しい熊さんの絵柄で。実際のクマさんは胃がもたれるとキャベツ畑のキャベツを食べて治すらしい。人間もキャベジンとか飲むし」
「本当なの? それ」
「信じる信じないは、みさき次第だ」
「ヨーロレリヒー(返事がヨーデルだ)」
「ヨーロレリーホー(泰造も返してきた)」
「あとはトンプクってのも必ず入ってたな。男が腹を押さえ込んで、痛みをこれ見よがしにアピールしてる絵だった。
あとはソクコーって薬は、すぐに風邪に効くっていうスピード感を表すために、パッケージになんの絵が描かれていたと思う?」
「わかんない(つか興味がない)」
「ジェット機だ! ジェット機がマッハのスピードで飛んできて、風邪の症状を吹き飛ばすのだ!」
「薬にジェット機の絵って、なんか合わないな」
「ジェット機の絵っていっても、今みたいな細密に描かれたものじゃなくて、すごくレトロな、空想科学小説の挿絵に載ってそうな絵だった。
そういえばコーソクって薬もジェット機の絵だったな。早く効く=ジェット機ってイメージだったんだな。
あと薬屋のおじさんが俺におまけの紙風船をくれたな。
それに息を吹き込んでふくらませて……ゲホゲホ」
「ほら、しゃべり過ぎだよ。食べたらお薬飲んでちゃんと寝ること。いい?」
「はーい」
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