第7話 ホラー映画が公開されるたびにあだ名が変わる女子
「お母さんの話してよ」ラーメンを食べ終えた私は泰造にせがんだ。
泰造はちょっととまどった顔をしたが、
「んー、お母さんとは幼なじみだったのは話したよな」
「うん」
「家が近所で、幼稚園から、小学校も中学校も一緒だった。でもお母さん、当時超地味だったんだ。
鼈甲の眼鏡をかけて髪は後ろで結いていて、性格も自分からは話しかけられなくて、いつもおどおどしてたから、クラスの男子たちにからかわれていつもホラー映画のタイトルで呼ばれてたんだ」
「ホラー映画? なんて言われてたの?」
「最初は『エクソシスト』って呼ばれてて、次は『オーメン』、そして『サスペリア』と呼ばれて、最後は『八つ墓村』と呼ばれていた。まあ八つ墓村はホラーじゃないけどな」
「ひどいね。それって、いじめじゃん」
「だよな。でも今みたいにクラス中で無視したり、トイレで上から水をかけられたりするわけじゃなかったんだ。ただそんなあだ名を面白がってつけられてただけで」
「それでもいじめだよ。今だったら問題になるよ」
「まあ当時は教師でさえ生徒の顔いじりとかしてたからな。ルッキズムなんてかけらもない時代だ。
でも幼なじみの俺だけが知ってたのだが、
母さんはその超地味な赤い鼈甲のメガネを外して、結わいていた髪をほどくと雰囲気が一変した。
出してるオーラがいつもと明らかに違う。周りにバラの花びらが舞うような、少女マンガのヒロインみたいに、本当に可愛かった」
「私より?」
「当然」
「ぶっとばすよ。でもそれならお母さんにメガネ取って髪を下ろした方がいいって言えば良かったじゃん」
「だめだよ。そんなことしたらお母さんモテモテになってしまう。だって超可愛いんだから。
だからいつまでも超地味なままでいて欲しかった。お母さんは俺の初恋の人だからな」
「すごい好きだった?」
「うるさいな。それで、誰にも取られたくなかったのに、お母さんに告白する勇気がなくてな。
でもその後、別々の高校に進学した後、ある日、お母さんの父親が映画の優待券を町内会でもらってきたんだ。
俺とお母さんの家はご近所さんで知り合いだったから、二人で行って来なとそれをお母さんにくれたんだそうだ。
それでお母さんとふたりきりで初めて見た映画がハイティーンブギだった」
「ハイティーンブギ?」
「近藤真彦ことマッチと、たのきんトリオの野村義男と田原俊彦が出てた。
あの当時の女子はトシちゃん派とマッチ派に分かれていて、ヨッちゃんだけ蚊帳の外だったんだ。
3年B組金八先生の第一シリーズに3人とも出てたけど、本放送してた時はヨッちゃんが1番いい役で目立ってたんだけどな。かわいそうに。
まあそれでお母さんはマッチ派だったんだ。
映画のストーリーは暴走族だけど本当はお金持ちの御曹子のマッチが、
好きな子が出来てその子のために暴走族を抜け、バンドを組んで有名になっていくっていう、
なんだかいかにもアイドル映画って内容だった。原作は漫画だけど。
でもテーマソングの作曲は山下達郎だった。
あの山下達郎が普通に歌謡曲を作ったことに当時は驚いたんだ。その後はジャニーズのアイドルに曲を提供するようになったが。
で、そのマッチがほれるヒロインを武田久美子がやっていて、ポニーテールが似合ってすごく可愛かった。ちょっとファンになったな。平凡って雑誌に載ってた写真を切り抜いて、下敷きの間に挟んだりしてたよ。
でもその何年か後に、胸と股間に貝殻つけただけの、まるで裸族みたいな写真集を出すなんて、思いもしなかった」
「胸と股間に貝殻って……」
「まあ夢を壊すのもアイドルの宿命だよな。天地真理の例を出すまでもなく」
「なんだか名言っぽいな」
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