第6話 夜中に食べる袋麺
夜中にキッチンに行くと、泰造が袋のインスタントラーメンを作っていた。
「小腹が減ってな」泰造が言い訳するように言った。お腹の脂肪を気にしているからか。
私は父と二人暮らしで、母は私が小学生の時に不慮の事故で亡くなった。
それからは男で一つで私を育ててくれた。だから父は洗濯も掃除も料理もなんでもやる。
私は……あまりしないww
「お前も食うか?」
私も夜中にラーメンなんか食べたら太るから少し迷ったけど、
「うん」と答えていた。明日のお昼ご飯を少なめにしよう。
泰造は鍋にマルチャン正麺を2つ入れた。
「昔は変な袋麺がいろいろあってな」
「どんなの?」
「まずはちび六ラーメンっていうのがあって、せんだみつおがCMしてた。せんだみつおはわかるか?」
「前にせんだみつおゲームってあったけど、その人? せんだ! みつお! ナハナハってやつ」
「そうだよ、よく知ってるな。ナハナハ!ってギャグが有名だけど、他にもギンザNOWって夕方の帯番組の司会をやってて、CMに行く前に『ナウ、コマーシャル!』っていうのもちよっとだけ流行ったな。
せんだみつおは何回も名前を変えていて、
千田光雄、せんだ光雄、二千田光雄、ムッシュ中野
浦島みつお、と、すごい変えっぷりだ!」
「二千田光雄って(笑)」
「それは2000年ミレニアムの年、1年限定の名前だったらしい」
「それで二千田(笑)」
「まあ、せんだみつおはそれくらいにして、ちび六ラーメンだ! ちびろくラーメンは長方形の袋に小ぶりの乾麺が6個入っていて、
お腹のすき具合で何個入れるか調整できるのがウリだった。
CMではお父さんはちび3……当時のレートは乾麺1=ちび1で換算された。ちび3は乾麺3つだ。
で、お父さんはちび3、お母さんはちび2、僕はちび1、とせんだみつおがCMで言い、
家族で一袋を分けて食べられたのだ。
でも子供でもちび1は量が少なかったけどな」
「そうなんだ」
「他には矢沢永吉がCMしてた『BIG』ってラーメンがあって、
それはちび六と違って、名前の通り乾麺が普通のよりBIGだった。俺は永ちゃんの成り上がりって本に感動したから、アルバムも何枚か聴いてたな。
それで永ちゃんは『ドアを開けろ』ってアルバムジャケットから抜け出たみたいに、グレーのスーツに帽子をかぶって渋く宣伝していた」
「へー」
「あとは、焼きそばなのになぜか袋にアラビア人の絵が描かれていたアラビアン焼きそば、
これは今でも売ってるが、CMで「そーだよ、そーだよ、ソースだよっ!」ってセリフが流行ったサッポロ一番ソース焼きそば、
あとは、もう亡くなった大橋巨泉が『なんちゅうか本中華』とCMで言って流行語になった本中華、
『今なんどきですか?』
『ハイ、ラーメンどきよ! 』のCMがウケたシャンメンなんかがあったな。
ちなみにシャンメンは後に大問題を起こすのだが」
「大問題って?」
「CMで女性タレントが『私、作る人』と言うと、男性タレント……太川陽介さんだったと思うが、僕、『食べる人』って言って、
このセリフが、女の人が作って男が食べるっていう性別役割分業を強調していて差別だと大抗議を受けてCMは放送中止になり、それでシャンメンもいつしか消えてしまった」
「たしかに女が作って男が食べるだけってCM、ちょっと今だとありえないね」
「まあな。ほら、出来たよ」
泰造がテーブルに丼を2つ置いた。半切りのゆで玉子とハムが乗ったシンプルなラーメンだ。夜中にラーメンを食べるのは罪悪感の固まりだけれど、今夜は自分を許してあげよう。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
「泰造、麺が硬めで美味しいよ。私が硬めが好きだって知ってたんだ」
「当たり前だ。何年、一緒に暮らしてると思ってるんだ」
深夜にこうして父娘で食べるインスタントラーメンも、それはそれでいいかもしれない。
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