第5話 少年チャンピオンの黄金時代

「俺としたことがっ!」


「なんだ、泰造どうした?」


「前に少年ジャンプの話をしたが、俺は大事な事を忘れてた!」


「何を?」


「俺はあの頃、ジャンプと同じように愛読していた雑誌があったのだ!」


「ルールル、ルールル(キタキツネを呼んでみた)」


「(キタキツネが来ないのを確認して)あの頃、ジャンプと同じくらい少年チャンピオンを愛読していたのだ! 俺の少年時代と少年チャンピオンの黄金時代はきれいにリンクしていたのだ。それはとても幸福なリンクだった。まるで、


手術台の上のミシンとこうもり傘の偶然の出会いのように美しい、というロートレアモンの言葉のように」


「オヤジめんどくさ」


「(気にせず)まず当時の少年チャンピオンの連載陣がすごかった!


まずはあの大名作、手塚治虫のブラックジャックがリアルタイムで連載されていたのだ!」


「それはちょっとすごいかも」


「アッチョンプリケ」


「それ何?」


「ブラックジャックに出てたピノコのセリフだ。

両方のほっぺにてのひらをぎゅっと当てて、唇をすぼめて言ってたな。


他にも中村雅俊主演でドラマ化された『ゆうひが丘の総理大臣』これは面白かったが、その後に二番煎じの、太陽にほえろに出ていた宮内洋が主演の『あさひが丘の大統領』はイマイチだった。ゆうひの後にあさひって安直だ。

 

それで、その上、あの、あの、野球漫画の不滅の金字塔、ドカベンまで連載されていたのだ!

作者の水島新司さんが亡くなられて寂しいけれど、俺の中では、葉っぱの岩城と、小さな巨人里中くんと、G線上のアリアの殿馬、それに山田太郎は今でも俺の中で生きて、明訓野球を続けている。


俺の心のフィールドオブドリームスで」


「オヤジかっこつけるな」


「(気にしないのがオヤジだ)だが、当時のチャンピオンにはそれをも凌ぐ二作の大横綱がいた。それは!」


「それは?」


「ガキデカとマカロニほうれん荘だっ!

この二作は後のギャグ漫画に多大な影響を与えたものすごい作品なのだ。


まずはガキデカ。


これは少年警察官のこまわりくんが異常な行動で周囲を大混乱させる話だ。


こまわりくんは今でいうと誰に似てるかな……」


「誰?」


「……ザキヤマかな。彼を2頭身にして警察官の格好させたら似てるかもしれない」


「なんか、こち亀の両さんが浮かんだ」


「まあ、それもありだな。で、そのこまわりくんの決め台詞が一世を風靡したあの『死刑!』だ」


「死刑?」


「腰をくねっとさせて両手の人指し指を横に向けたポーズをして『死刑!』だ。

これはオヤジなら、みんな真似したことがあると思う。イヤミのシェーと一緒だ。シェーやってる写真はオヤジのアルバムには必ず一枚はあるからな。


まあそれはいいとして、今、死刑制度存廃問題が議論されてる中、あんなに無邪気に『死刑!』とかポーズ付けて言ったら、なんだか変な空気になってしまうだろう。


だから死刑に対する感覚がまだゆるかった当時しか成立しないギャグなのだ」


「まあ、センシティブな問題だからね」


「ガキデカはすごく後にアニメになったし、単行本も3000万部売れた。

当時としたら鬼滅の刃級の特大ヒットだったんだ」


「マジか!」


「こまわりくんには他にも、

『アフリカ象が好きっ!』『八丈島のキョン!』『慣れるとおいしい、くさやの干物』などのギャグがあった」


「くさやの干物って慣れるとおいしいのか!」


「ちなみに俺はこまわりくんの友達の亀吉が好きだった。

亀吉は本当に亀吉というしかない顔をしていて、例えるなら……研ナオコみたいな顔だ。


亀吉の出現後、クラスにひとりは亀吉とアダ名される奴がいたものだ」


「そんなアダ名、嫌だな」


「そして、もう一方の雄、マカロニほうれん荘について話そう」


「変なタイトル」


「これは、ほうれん荘というボロアパートで同居することになった沖田総司(そうじ)と膝方歳三、金藤日陽の三人がメインキャラクターだ。


名前からわかるが新撰組をもじっている。その辺は銀魂の沖田、土方、近藤さんと一緒だ」


「泰造、銀魂知ってるんだ。だったら銀魂の話してよ。銀魂、銀魂」


「若い女子が銀魂銀魂ってはしたない。濁点取ったら金〇じゃないか」


「オヤジぶっ殺す」


「まあそれはいいとして、沖田は普通の高校生なのだが、同級生の膝方は留年しまくりで25歳、


金藤さんに至っては40歳なのだ。


そして膝方は自らを、『トシちゃん25歳!』と言い、このトシちゃん25歳! は当時流行語にもなったのだ。


風貌は黒いサングラスをかけた長身で、一見カッコいいのだが、すぐにふざけて怪獣やら動物やらに変身してしまうのだ。


ちなみにトシちゃんは設定では父が宇宙人で母がオーストラリア大ミミズだった」


「すごい設定だ」


「金藤こと、きんどーさんはマツコデラックスを小柄にしたようなおネエで、

やーねーと言いながら時々ゴリラダンスを踊る」


「そういえば銀魂の近藤さんもゴリラだ」


「とにかく脈絡なくトシちゃんときんどーさんが暴れ回るのだが、


そのPOPな絵柄とシュールなギャグが画期的だった。今でもあのカラー原稿を額に入れて飾ったらオシャレなポップアートになると思う。


でも後半、シュールになりすぎて人気が失速していくんだけどな」


「まあ、ちょっと読みたくなったかも」


「あとは高校生ライダーの話で、委員長って女の子が可愛かった『750ライダー』や、ナンセンスな『らんぽお』柳沢きみおの出世作『月とスッポン』


後半、小学生の性がテーマになった鬼才ジョージ秋山の『花のよたろう』後年再連載され映画にもなった『エコエコアザラク』など人気漫画が目白押しだった。


とても幸せな時代だった。そして俺が年を取っていくごとに少年チャンピオンは失速していくのだった」


「話は終わった?」


「終わった」


「じゃあ銀魂の話を」


「銀魂か。ジャンプの連載は終わったけど、アニメや映画、実写化もされた大ヒット作。以上」


「それだけかよ、そっけな」

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