第4話 ずる休みの楽しみ

 泰造が言った。


「会社行きたくねえな」


 私は手作りスムージーを飲んでいたので、その言動をがん無視した。


「(意に介さず)俺が中学の頃はよくずる休みしてな、普段見れない午前中のテレビを見るのが大好きだった」


「…………(再びがん無視。私はZIP! のミトちゃんが好きで、テレビに釘付けだったのだ)」


「(無視には慣れてる)まずはテレビ朝日の溝口モーニングショーでやってた

『宮尾すすむの、ああ日本の社長』を見るのが楽しみだった」


「宮尾すすむ? 日本の社長?(やべ、反応してしまった)」


「昔、イカ天に出てきたバンドで『宮尾すすむと日本の社長』っていうのがいたけど、この番組にインスパイアされて名付けたのだろう。いま芸人でもニッポンの社長っているしな」


「ニッポンの社長は知ってるけど、あとわかんないし。てか、イカ天って何?」


「平成名物テレビって深夜番組のコーナーで、イカすバンド天国っていうのがあって、そこに出てたバンドだ」


「変なバンド名」


「他にも、みうらじゅんがやってた大島渚ってバンドもあったぞ。『カリフォルニアの青いばか』って曲を歌ってたな。まあ、その話はいいとして、


『日本の社長』はもう亡くなった宮尾すすむが『ハイッ』と手刀を頬の辺りで止める独特のポーズをしながら、


日本全国の中小企業の社長の会社や自宅を密着レポートする番組だった。みんないい家に住んでて、広間に日本刀が飾られてたり、庭が料亭の庭園みたいだったりしたな。


俺はそれを見ながら、俺もいつかは社長になってやんよと思ったものだ」


「なれてないし」


「俺はまだ本気出してないだけだ。

で、他には日テレのズームイン朝!の後、8時半からやってた沢田亜矢子司会の『ルックルックこんにちわ』を見てたな。司会はその後、岸部シローに変わるんだが。


その中の名物コーナー、

『ドキュメント女ののど自慢』が好きだったな」


「なんでドキュメントなん? ただの女ののど自慢でいいじゃん」


「基本は女の人ののど自慢大会なんだが、歌う前に局アナがその人の半生をフリップなどを交えて説明し、


その半生が不幸であればあるほど、例え歌が下手でも高得点を叩きだせて、豪華な商品がもらえるという画期的なのど自慢番組だった」


「のど自慢じゃなくて不幸自慢なんだ」


「そうだったんだよ、実際! 両親に捨てられ、新聞配達しながら学校に通い、幼い弟の面倒を見てました。その後も男にだまされて……みたいな話がみんな大好物で、客席を映すとハンカチで涙を拭いてるおば様たちがいっぱいいたな。


 それでお昼になると、母が、俺が学校に行くものだと思って作ってくれた弁当を食べながら『笑ってる場合ですよ!』を見るのが無上の幸せだった」


「なにそれ?」


「フジテレビは今お昼にハライチがMCの、ぽかぽかっていうのをやってるけど、あの枠で『笑っていいとも』の前にやってた、帯のお笑い番組が『笑ってる場合ですよ!』だ。

 

当時は漫才ブームで、『もみじまんじゅー!』で一世を風靡したB&Bが総合司会で、


月曜日はザ・ぼんち、火曜日がツービート、水曜日が紳助竜介、木曜日が春風亭小朝、金曜日がのりおよしおが出てた。のちに木曜日が明石家さんまに変わったな。


俺は特に火曜日のツービートの『勝ち抜きブス合戦』ってコーナーが好きだったな」


「なに、勝ち抜きブス合戦って?」


「だからブスな女の子が二人出てきて、どっちがブスか会場のお客さんが審査して、勝ったら翌週も出れるみたいなコーナーだった」


「それコンプライアンス的にどうよ? すっごいルッキズムだし」


「当時はコンプライアンスなんてないも同然だったからな。今やったら炎上どころじゃないな、番組なくなるな。


それで笑ってる場合ですよ! が終わった後は!」


「終わった後は?」


「ゆっくりお昼寝をする。なんて幸せなずる休みなんだ! テレビはその時間昼メロと呼ばれるドラマ帯で見ててもつまらなかったしな」


「なんだよ、それ。学校行けよ、学校!」


「じゃあ、お前はずる休みした時は、何してんだよ?」


「この前はNetflixでサンクチュアリを一気見した」


「あっ、俺も全裸監督は観たぞ」


「オヤジ、ガラケーじゃん」


「だからお前のスマホで観たんだよ」


「何してくれてんだよ! 道理で観てもないのに、履歴が付いてるからおかしいと思ったんだよ!


全裸監督の試聴履歴を彼氏に見られたらどうすんだよ!」


「男はそういうのに寛容だ。

 スネに傷ある奴ばかりだからな。

 AV観たりとかな」


「うちの彼氏はそんなん見ねーよ」


「AVを観ない男はおらん。それが今回の結論だ!」


「サイテーな結論だな」

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