第4話
その日から、女は男のために口説き会話の特訓を始めた。
それは主に男の住んでいるアパートで行われた。
恋愛を成功させるためにはいくつかの必要な分野があるが、会話はその中でも特に重要な分野である。
女はそれらのどの分野にも精通していたが、特に会話分野には精通していた。
女は恋愛アドバイザーの仕事を月曜日を除く毎日、朝の10時から夕方の6時まで、彼女の住むマンションで行っていた。
そして、それが終わると今度は男のアパートに行って、男のために無料の恋愛アドバイスをした。
一ヶ月後、男の恋愛のための会話能力はかなり向上した。
女は男にそろそろ別れた彼女に電話するよう提案した。
遂にこの日が来たかと男は感激のあまり泣き出したりはしなかったが、ガッツポーズをとった。
そして、恐る恐るではなかったが、適度な緊張感を感じながら、別れた彼女に電話した。
「 はい、もしもし。」
「 あ、この前、キミに人生の苦杯を味わされ、寂しさと憂鬱が親友となってしまった僕だけど、元気してた?」
「 あ、久しぶりだけど、何の用があってかけてきたの?」
「 キミの声を聞く用があって電話したんだけど、ダメかな?」
「 そんなことないわ。だけど、一応、もう用は済んだわね。」
「 うん。だけど、もう少し話したいな。」
「 それはいいけど、何話す?」
「 あれからキミはどうしてたの?」
「 え、えっと、私はあれから。」
「 うん、あれからどうしてたの?」
「 ど、どうしてたって、ま、あれからもそれまでとあまり変わらない生活を送ってるわ。」
「 そう。どう? よかったら、また仲良くしない?」
「 う~ん。ご、ごめんなさい。やっぱり無理だわ。」
「 そうか。残念だね。仕事は順調にいってる?」
「 あ、はい。」
「 良かった。キミは才能あるからな。」
「 どうかしら? それは。」
「 これからも順調にいくことを祈ってるよ。」
「 ありがとう。」
「 じゃ、元気で。」
「 そちらこそ、元気で。」
「 ありがとう。またどこかで会う機会があったら、一緒にお茶でも飲もうな。」
「 え~。」
「 じゃ、さよなら。」
「 さよなら。」
電話を終えて、男は満足感に浸った。
よりを完全に戻すことはできなかったものの、今後何とかいけそうな感触を得ることができた。
スピーカー機能を使って電話していたので、側にいた恋愛アドバイザーの女も会話の一部始終を聞いていた。
女は男に近づき、両手で男の両肘をつかんで、男の顔をじっと見据えながら「 よくできたわ。彼女とよりを戻す日は近いわ。頑張ってね。」と言ったが、その強い眼差しに男は一瞬驚いた。
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