第3話

女にフラれた男と恋愛アドバイザーの女は、とりあえず街の中心部にある高級料亭ヘ行き、そこでそれぞれ何十万円もする料理を注文したワケではなかった。

男にそれほどの経済的余裕があれば男をフッた女ともっとマシな関係を築けただろうし、恋愛アドバイザーの女のアドバイスが的確であると言ってもそんなに多くの人間が彼女のもとにアドバイスを求めてやって来るワケではなかった。

したがって、二人が行った所はごく普通の喫茶店であった。

そこで、男はサイダーを、女はコーラを注文した。

つまり、喫茶店は彼らに自動販売機よりも高度なサービスを施すことはなかった。


コーラをひと口飲んでから、女は男に質問した。

「 あなたが付き合ってた女性からフラれた一番の原因は何だと思う?」

「 それがよくわからないんだ。僕はあの女に一途だったから浮気を疑われるようなことはなかったはずだし、時々冗談を言ったり誉めたりして気分良くさせていたんだけどな。」

「 彼女自身があなたに直接ここを直して欲しいとか言ったことはなかったの?」

「 そういうのはなかったな。」

「 別れる時に彼女はあなたにどんなことを言ったの?」

「 よくよく考えたけど僕とは別れた方がいいと思うってことを言ってたな~。後、覆水盆に返らずってことも言ってたな~。」

「 ということは、あなたがしてしまった一つあるいは複数の失敗に対して、彼女なりに考えた結果、別れた方がいいという結論に達した可能性があるわね。」

「 どんな失敗だろう? そんな失敗をした覚えはないんだけど。」

既にこの時点で、そんな失敗を男はしてないだろうと女は思った。

「 特にあなたに非がなくても、彼女が他の男を好きになってあなたを捨てたっていう可能性はないかしら?」

「 う~ん、どうだろう? そこまではよくわからないな。」

「 確認のため聞くけど、あなたは彼女以外の人との人間関係はどうだったの? 仲が悪い人とかいる? あるいは、例えばレストランのウエイターにぞんざいなものの言い方をするとかいうことはなかった?」

「 全くないね、そんなことは。」

「 だとすると、別れる時に彼女があなたに言ったことは、単なる別れの口実であって体裁を繕うためだけのものだったのかもしれないわ。」

「 ショックだな、それは。」

「 あなた、時々冗談を言ってたって、さっき言ってたけど、どんな冗談を言ってたの?」

女にそう聞かれて、男はデート場所を近所の空き地にした話や彼女の誕生日にしじみの貝殻をプレゼントした話をした。

「 聞く相手にもよるけど、あまりいい冗談とは言えないわね。それで、彼女の反応はどうだったの? できるだけ詳しく聞かせて。」

それらの冗談は彼女にはすこぶるウケて、その後の会話も一応スムーズに進んだことを男は話した。

「 もし、あなたに特に非がないのに彼女があなたを捨てたのなら、その彼女を自分のもとに戻すためには、あなたが今よりももっと魅力的な男になる必要があるわ。」

「 そうだろうな。世の中には、僕よりも女に好かれる男はたくさんいるもんな。」

「 まずは、会話力を磨く必要があるわ。並の会話力はあるようだけど、女性を口説くための会話力はまだまだなようね。私が特訓をして教えてあげるわ。」

女のその情熱は不自然なまでに異様だった。

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