第2話

男は女とよりを戻したかったが、それはできそうにないと思った。

女への未練は残るが、諦めるしかない。

それにしてもいい女だった。

あれほどの女にはもう会えないだろう。

タイムマシンがあれば江戸時代に美人の誉れ高かった柳屋の看板娘のお藤にでも会いに行くが、そんな物もない。

とりあえず、公園のベンチまで行ってそこに座ることにした。

公園のベンチに行くまでに出会う女はたくさんいたが、男はその誰にも興味を持たなかった。

ベンチに座ってしばしの間、男は辺りの風景を眺めていた。

季節は晩秋であった。

その公園はかなり敷地が広く、敷地内にはたくさんの樹木が植えられていた。

つい一ヶ月前には赤く色付いていた紅葉の葉も黄色く色付いていた銀杏の葉も、今は枯れ葉となって地面に散らばっていた。

季節は男をますます寂しくさせた。

「 お一人ですか?」

ふと斜め前から女の声がするので見上げると、そこには柳屋の看板娘のお藤もさもありなんという美女が立っていた。

「 そうです。さすが素晴らしい状況把握で。」

「 じゃあ、横に座らせてもらってもいいですか?」

「 もちろんです。むしろ、是非横に座ってくださいとこっちが言いたいくらいで。」

「 じゃあ、お言葉に甘えて。」

「 どうぞ、どうぞ。何の遠慮も気兼ねも躊躇も必要ありません。」

女は絵に描いたようなおしとやかさでベンチに座った。

「 何かお悩み事でもおありですか? 物思いに耽っておられるようでしたけど。」

「 いや~、つい最近、失恋をしまして。」

「 それはいけませんでしたね~。でも、ちょうど良かったわ。私は恋愛アドバイザーの仕事をしてるの。その失恋を何とか解決してあげますわ。」

「 いや~、相手の女は完全に僕に愛想を尽かしたようです。だから、無理ですよ。それよりも、僕は今、できたらあなたと付き合いたいと思ってるんだけど。」

「 それはできませんわ。」

「 がっかりだな~。だけど、あなたが恋愛アドバイザーなら、あなたとの失恋も解決できないかな?」

「 ごめんなさい。それだけはできないの。」

「 ふ~ん。彼氏いるの? いるよね。いないはずないよね。」

「 いないわ。」

「 へ~、いつ別れたの?」

「 私は今までに彼氏を作ったことなどないの。」

「 おねえさんのように綺麗な人が一度も彼氏を作ったことがないなんて信じられないな。だけど、よくそれで恋愛アドバイザーの仕事が勤まるね。」

「 どういうわけかそういう才能はあるみたいなの。まぁ、騙されたと思ってちょっと私に任せて頂戴。彼氏にしたいって意味じゃないけどおにいさん私のタイプなんで、タダでいろいろとアドバイスしてあげますわ。」

“ 有難い話だが、この女はいったい何者なのだろう?” と男は思った。




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