第11話 朱色の大宮殿

 都の真ん中を通るとても広い幅を持つ大路を、一行はそれぞれの感慨を抱きながら歩いている。竜次にとっては何もかも新鮮な異世界の都である。色とりどりの服を着た町人、雑貨や食べ物、調度品など、様々な物を売っている商店街、見るもの全てが珍しく、興味を引かれながら歩くので、彼の足はなかなか進まなかった。


「竜次さん。私も都の各所をご案内したいのですが、今は先に進みましょう。後でゆっくり賑やかな所を見て回れますよ」

「ん……ああそうだな。すまんな、面白すぎて足が止まっちまった。よし、どんどん歩こう」


 咲夜にそう諭されるほどだったので、竜次の足取りは、相当ゆっくりだったのだろう。つい、旅行気分になってしまった自分の気持ちを切り替えると、30半ばのおっさんは歩く速度を早め、長い都大路を進んで行った。




「へぇ~! これが咲夜の家ってことか。やっぱとんでもない名家のお姫様なんだな。恐れ入ったぜ」

「そんなことはないですよ。建物に恐れ入るなんて、竜次さんらしくないじゃないですか」


 常と変わらぬ表情で咲夜はそう言っているが、この宮殿を見れば誰しもが恐れ入るだろう。だだっ広い敷地に、豪奢絢爛な装飾が施された柱が幾本も使われた、朱色を基調とした建物が存在している。それが宮殿なのだが、奥行きも幅も非常に広く、優美さと守りに適した機能性を兼ね備えているように、竜次には見て取れた。


 朱色の宮殿の大きな玄関に一行が入ると侍従が現れ、この国、縁の国の大切な姫である咲夜の帰還を確認し、大変な安堵の表情をまず浮かべた。そして、「お館様と奥様にお知らせします。少々お待ち下さい」と、奥に引き下がると、しばらくして、咲夜によく似た目を持つ、緑色の衣を着た美しい婦人と、鋭い相貌をした、威厳ある壮年の武人が現れた。その武人は鋭さの中に、例えれば、都全体を見るような優しさも、内面から溢れている。


「おお!! 無事に帰って来たか! 桔梗と私は気が気ではなかったぞ。まず良かった」

「お館様のおっしゃるとおりです。私たちはあなたが心配で、夜通し起きておりました。咲夜、本当に無事で良かった……」


 縁の国の最高権力者夫妻から受けた、出迎えの挨拶を皮切りに、ここまでの経緯を姫である咲夜が、中心的に伝えた。そうした中、場違い感すら覚えている竜次は所在なさげだったが、


「咲夜を助けてくれてありがとう。心から感謝致す」


 と、気さくな屈託のない笑顔で、本心からの礼を示してくれた咲夜の父母に対し、彼はそれだけで心を暖かく抱擁され、そんな感情を覚えた自分自身にも驚いている。

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