第10話 連理の都

 真黒き怪異との戦いで、異世界での旅が安全ではないことがよくわかった。竜次のアカツキノタイラを歩く心構えは、それにより完全なものになったと言える。咲夜や守綱の見立て通り、もう竜次は異世界に順応してきたようだ。


 その後の旅は順調であった。一行は日が落ち、夜になるまで歩いたが、ちょうど幾つかの民家が並ぶ集落に差し掛かり、宿を借りることで野宿をせずに済んだ。温かい味噌雑炊や青菜の和え物、根菜の煮物など、この世界の家庭料理をありがたく味わった後、寝具でぐっすり眠り、しっかりと竜次たちは英気を養うことができている。一宿一飯の恩義に応えるため、一行は真黒き怪異を斬った後に手に入れた、小さな宝珠を1つ家主に渡し、残りの道程を進み始めた。


「おお~! これはいい眺めだな! 田畑がどこまでも広がっている!」

「素晴らしい広さでしょう。都を囲むように、穀倉地帯が作られているんです。この豊富な食料が、連理の都を栄えさせてくれています。ここまで来れば、都の門までもう少しですよ」


 日本にも北海道や新潟など、非常に広く、田畑が作られているところはある。だが、竜次が見ているそれは、向こうの地平線まで続いているほどで、


(いったいどのくらいの取れ高があるんだろうな?)


 と、考えても見当がつかないくらいだ。




 連理の都の大門は、咲夜が腰につけているポーチと同じ、鮮やかな朱色であった。門番は、この国の姫である咲夜に気づかないはずがなかったが、彼女が事を大きくしないようにと伝えたのもあり、最低限の儀礼を取っただけで、他の門を通る者と変わることなく、一行は都へ足を踏み入れた。


 とてつもなく大きいこの世界においては、やはり都も広大である。区画整理をされた、ズラッと立ち並ぶ商店や民家を見て、竜次は驚きのあまりやや呆気に取られていた。そうした中で、それらの建物をよく観察すると、更に驚くべきことに気づいた。


「電気!? この都は電気が通っているのか!? 電気がないと動かない物が沢山あるぞ?」

「そこに驚いておったか。竜次殿の世界の電気とよく似ておるが、少し違うものでな。我らは『超速子』と呼んでおる。都から少々離れた所で力を生み出し、それを大曼荼羅の気脈を通して、都全体に送っておるのだ」


 社からの道中で泊まった民家には、超速子のエネルギーが届いていなかったが、よく思い出してみると、その力を溜めた、電池のような物を少しだけ使っていたように思える。この世界ではいわゆる法力が非常に重要で、それに伴った科学が発展しているのかもしれない。超速子もその科学により生み出された、テクノロジーなのだろう。

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