第8話 広大な大地
アカツキノタイラへ来る前の日本は夜だったはずだが、この社の空を見上げると、雲がポツポツと浮かんでいる良い天気である。静寂に包まれた場所かと思っていると、忘れた頃にカラスが一つ、大きな声で鳴いた。
「異世界にもカラスがいるんだな。空気はなんとなく違うが、ここは日本に凄く似ている」
「拙者や姫と話して気づいていると思うが、お主がいた日本とアカツキノタイラは、精神観念的につながっておる。竜次殿、お主はすぐこの世界に慣れるだろう。ところどころ違いはあるがな」
守綱の説明はよく分かる。咲夜や守綱は、少々時代がかった格好をしており、法力を使った不思議な道具を持ってもいるが、何より日本語が完全に通じているのだ。
(タイムスリップとは、また違う話だよな。ここは本当に異世界なんだろう)
社の庭の真ん中に立ち、辺りを囲む緑が深い森を見回しながら、竜次は自分の考えを整理した。
「源竜次さん。私たちの世界、アカツキノタイラへようこそ。長いお付き合いになると思いますが、これからよろしくおねがいします」
「おう、よろしく頼むぜ。で、これからどこに行くんだ? 咲夜たちは、この社に住んでるってわけでもないんだろう?」
「ふふっ、それはそうですよ。これから私の故郷、『連理の都』へ戻ります。幾らか長い距離を歩きますので、竜次さんもこれで足拵えをして下さい」
そう話しながら、無限の朱袋から咲夜が取り出したのは、丈夫でしなやかな脚絆である。通気性も良く、これを履けば長距離を歩いても、足と体の疲れがかなり軽減されそうだ。
社の森を出た竜次は、目の前にどこまでも広がる地平を見て、思わず感嘆の声を上げた。
「広い! なんだこの広さは! 日本と全然違うぞ!」
「そうであろう。我らは逆に、日本の狭さに驚いたものだ。アカツキノタイラの大地は広いぞ」
地球にあるユーラシア大陸はとても広いが、それとはまた規模感が違う突き抜けた広さを、遥か向こうに見える地平線から竜次は感じ取っている。それは、歳を重ねたおっさんである彼の心をも、奮い立たせるほどであった。
「アカツキノタイラを気に入ってくれたようですね、竜次さん。困難も多いですが、楽しみも沢山、この世界にはあります。では、参りましょう」
興奮冷めやらない竜次の様子に微笑みを向けると、勝手知ったる広大な大地を、咲夜は南に歩き始めた。銀髪姫のシルエットを地に映す、陽の光は神々しい。竜次は異世界のお天道様に導かれ、最初の一歩を踏み出した。
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