第7話 異世界アカツキノタイラへ
退職と社宅引き払いの手続きは、考えていたより早く済んだのだが、それでもレッドオーガを斬った時から2時間程たっている。咲夜たちが待つ祠の辺りはすっかり暗くなり、茂みに鳴く虫の音も、ますます大きくなっていた。
「よう! 待たせたな。会社は辞めてきたから、これでいつ行ってもいいぜ。準備万端だ」
「竜次さん……戻ってきてくれたんですね」
案外、気が変わって戻ってこないかもしれないと、兵団長守綱と相談しながら咲夜は待っていた。それが、律儀に手荷物と身一つで帰ってきた竜次を見て、彼女はバカ正直とも言えるほどの、竜次の誠実さに感動し、可愛らしい三日月目を潤ませかけている。
「姫、皆そろいました。我らの世界へ帰りましょう」
守綱の呼びかけに軽くうなずくと、咲夜は周囲にいる皆を見回し、自身が身につけている朱色のポーチから、どう見ても入っていた入れ物より大きい、金色の装飾が施された黒鏡を取り出した。
「なんだ今の!? どうやって入ってたんだ!? その黒い鏡は!?」
「私が腰に付けているのは『無限の朱袋』です。物を縮小して入れておくことができる便利な袋で、名の通り、無限と言えるほど様々な物を保管できます。そして、これは『紡ぎ世の黒鏡』です。この鏡が持つ法力を使い、今からアカツキノタイラへ歪を開きます」
紡ぎ世の黒鏡をある茂みの一角に向け、真言のような言葉を一心不乱に咲夜は唱え始める! すると、町外れの明かりがない暗い夜にもかかわらず、黒鏡の鏡面からまばゆい光が発せられ、それは、異世界アカツキノタイラへと続く、光の門を作り出した!
「竜次さん、もう一度聞きます。この門をくぐっていいんですね? いつ日本に帰れるかわからないですよ?」
「はっはっはっ! そんなに心配してくれなくて大丈夫だ。俺はもう日本に気がかりは何もないんでね」
「そうですか……ありがとうございます。では、参りましょう。アカツキノタイラへ」
主人の咲夜が皆に目配せすると、守綱を筆頭に小兵団の者たちが、光の門を次々くぐり、異世界へ飛んでいく! 配下の者が全て門をくぐった後、咲夜は竜次の手を柔らかく自然に握り、彼を導くように光の門へ入っていった!
不思議な感覚である。光の道を光そのものになったかのように、超高速で飛んでいった先、気がつけば低草が庭に生い茂る、小さな社の前に竜次たちはいた。辺りは広葉樹の森になっており、まるで、この社を隠しているようでもある。
ともすれば、日本のどこかへ移ったのかと錯覚してしまうが、辺りの空気が今までと違うことを、竜次は鋭敏に気づいていた。
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