第5話

「よぉ」

何くわない顔をして三郎が明日香の

部屋を訪れたのは、二月のある日

のことだった。

「何しに来たの」

明日香が怒って怖い顔になった。

「そんな、怖い顔するなよ。見舞いにきて

やったんだぜ」

「誰がお見舞いに来てくれなんていったのよ。

帰って」

「悪かったよ」

三郎が折れた。盛んに三郎は頭を

掻いた。

「でもな、オマエを今でも愛していることに

変わりはないんだ」

「何が、愛よ」

明日香が唇をきつく噛みしめて

わなないた。

「わたしの愛じゃないわよ! あなたなんか」

「うまいこというな。小説家になれるぜ」

「わたし、小説家になって生計を立てて行こうと

思ってるの」

明日香が意を決して言った。

「何だって」

二人の間に暫くの沈黙があった。

そして、そのあとに三郎が大笑いした。

「オマエ、何言ってるかわかってるのか。

事故って頭おかしくなったんじゃねえのか」

 三郎はまつたく明日香を相手にしよう

としなかった。


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