努力と絆 -前編-
エイシェントは、呆然と立ち尽くしていた。
「いや、お前さ?自分が9番だって言って手を上げちゃったじゃん?」
「…。」
「お前の引いた番号"6番"だから。」
「……。」
「おまけに真の勇者は俺じゃないんだって思ったのかは分からんけど、手を上げないし…。」
「………。」
「俺だってお前と話すために色々な手続きしないといけなくて大変だったんだぜ?」
「…僕が…勇者じゃ…ない?」
「そう。勇者じゃない。だから、俺ともすぐ喋れなかったし、あの雑魚敵さえも倒せてない。」
「でも…僕は…剣を抜いたよ?」
「あれは、教会が勝手にそう言ってるだけ。教会は、番号で選んだ時点でそいつが勇者だと確定してるって思ってるからね。」
「そうなんだ…。じゃぁ…。勇者やめるよ…。ちょうど良い。やめたかったんだ。」
「それは無理だな。」
「え?なんで?」
「いや、別に俺にとっては良いんだけど。お前が終わるぜ?」
「どういうこと?」
「まぁ、村の奴らは皆お前の事を真の勇者だとは思ってない。だから、今帰って、お前が「僕は勇者じゃなかった。」なんて言えば、反感を買うだけだ。お前はでしゃばりだ、勘違いだってな。まぁ、実際そうなんだが。それでも良いのか?」
「でも…僕はどうしたら。」
「まぁ、面倒臭いが、対処法がないわけではない。」
「その対処法って?」
「"努力"と"絆"だ。」
「…。」
かつての勇者は、神が直々に選んでいた。こいつなら敵を倒せる見込みがある。こいつなら魔王を倒せる見込みがある。そんな者を神は選んでいた。でも、今回の場合はイレギュラー。想定外の事態だ。エイシェントの場合、彼は雑魚敵を倒す能力さえも備わっていなかった。"勇者に向いてない"のだ。だが、そんな者でも、魔王を倒せる可能性はある。それは"努力"と"絆"だ。努力をし、自らが剣で敵を倒せるようにし、絆を深め仲間と共に魔王を倒すことがエイシェントには求められた。
「どうする?このまま村へ帰って、皆から嫌われるか?それとも努力して、仲間を作り、魔王を倒して、
「僕は…魔王を倒すよ…!」
「それでこそだ。」
エイシェントは、誓った。必ずしも魔王を倒してやると。選ばれし者だろうがなかろうが関係ない。僕はもうそういう
「じゃぁ、取り敢えずどうしたら良いかな?」
「剣を振れ。」
「…え?それだけ?」
「あぁ、取り敢えずな。」
「なんだ。そんなの簡単じゃん!」
「いや、簡単じゃない。お前は剣を振るの意味を履き違えてる。ただ振れば良いってもんじゃない。」
「じゃぁ、どうやって振るの?」
「剣の先を見ろ。どこを切っているか見ろ。お前はそもそもその剣の間合いを知らない。もし、それでその剣の間合いを知ることができたと思ったら、「神様!」と呼ぶんだ。いつでも出てきてやる。」
「分かったよ…。」
「それじゃぁな。健闘を祈る。」
そう言うと、神は消えた。
「間合いを知るって言ったって、どうしたらいいんだ…。剣を振ったところで分かるのか?」
エイシェントは、取り敢えず剣を振ってみた。ヒュッと剣が風を切る音がする。エイシェントは、それを何回か繰り返した。
「分からない…。もういいや。神様!」
すると、神が案の定現れた。
「早いな。もう特訓は終わりか?」
「うん。もう多分余裕。」
「じゃぁ、試してやろう。」
すると近くにあった小枝が急にフワッと浮いた。
「うわぁ!」
エイシェントは、腰を抜かした。
「安心しろ。俺が動かしてるだけだ。立て。」
エイシェントは、恐る恐る立った。
「お前がこの小枝にかすり傷を付けたら、努力したと認めてやろう。」
「OK。やってやる!」
小枝は、グラヴィスよりも遅く、エイシェントの方へ動いた。
「こんなの余裕だね!」
エイシェントが小枝を切ろうと剣を振った。しかし、小枝には、全くもって当たらなかった。
「嘘だ!当たると思ったのに!」
小枝は、刻一刻とエイシェントに近づいてきている。エイシェントは、体の近くに小枝が来た時にもう一度剣を振った。しかし、小枝にその攻撃は避けられ、エイシェントの体に当たり、小枝は突如として動かなくなった。
「お前、さっきの雑魚敵よりも弱い動きしてるのに、一切攻撃を当てられてないじゃないか。まだまだだな。努力しろ。」
すると神もその場から消えた。エイシェントは、悔しかった。神に馬鹿にされたのである。エイシェントは、地面を殴った。
「どうして…。どうして僕はこんなに報われないんだ!!」
エイシェントは、立ち上がった。
「やってやる…。絶対に強くなって見せる!
エイシェントは、単純だった。それがエイシェントの唯一の取り柄である。エイシェントは、ひたすら剣を振った。太陽の光が物凄い射す熱い日も。雨が降り注ぐ、冷たい日も。ただただ剣を振り続けた。手にまめができようと剣を振り続けたのである。
「神…。僕は、振り続けたぞ。この剣のことを少しは
すると神は、現れて言った。
「なんだよ…。」
「聞いてなかったのか?」
「聞いてねぇよ。こっちは、ゲームしてるんだから。神って呼ばれたら勝手にでてきちゃうシステムなんだよ…。」
「は?」
「んで、用件は?」
「…小枝を動かしてくれないか…?」
「ん…?あぁあぁ。お前努力したの?てっきり諦めたのかと思った。」
「お前にあんな風に言われ、僕は努力したんだ。今なら絶対にあの小枝に傷をつけれる…。いや、切れる!」
「ふーん。じゃぁ、始めるよ。」
小枝が浮いた。小枝はゆっくりと、しかし意思を持って、エイシェントに近づいてきた。
「ここか!」
エイシェントは、力強く剣を振った。剣が風を切る音がした。小枝はエイシェントの攻撃を避けた。しかし、それはスレスレでの回避だった。
「もう少しで…当たる!」
エイシェントは、更に剣を振った。
「絶対に…絶対に当ててやる!」
すると神が言った。
「少しは強くなったな。が、今度は俺から攻撃するぞ。」
すると小枝は、エイシェントの体に突進してきた。
「…!お前、いつの間に…。」
[エイシェントは、
単なる攻撃回避。何かに長けていなくても覚える技の一つである。
「剣を振ってる間に覚えたよ。剣をがむしゃらに振ってたら何回も転ぶんだ。その時に覚えた。覚えたというか使えそうだと思ったんだ。やはり、僕は勇者に向いているんだ!」
しかし、エイシェントは勘違いしている。
「今だ!切ってやる!」
「…はっ!」
神は、呆気に取られており、小枝を動かすのを忘れていた。エイシェントは、小枝に剣を振りかざした。剣が、小枝に当たった。
「いけ!」
シュッとエイシェントは、小枝に傷をつけた。
「あぁ、やっちまった。俺の負けだ。」
「やった!!」
エイシェントは、剣を振り回し、喜んだ。
「んじゃ。そういうことなんで、頑張れよ。」
「お、おい!待てよ!」
「なんだよ。」
「認めろ。」
「…は?」
「僕のことを、認めろ!」
神は、溜め息をした。
「あの小枝を傷つけられる"ぐらい"の努力はしたようだな。認めてやる。しかし、お前は勇者になった以上、魔王、
「…わかったよ。でも僕は心に誓ったんだ。絶対に
「そうか。期待せずに見ててやるよ。」
そう言うと、神は消えた。エイシェントは、膝から崩れ落ちるように地面に座り込んだ。
「やっと…。やっと神に認めてもらえた!」
エイシェントは、認めてもらったことが嬉しくてたまらなかったのだ。すると体の奥底から、力が湧いたような気がした。
「なんだ…これ?」
「あ、やべ。伝えるの忘れてた。」
と神の声がどこからか聞こえた。
「なんか今、力湧いたような気がしたでしょ。」
「う、うん。」
「それ、経験値。なんか経験する度にそれ貰えるから。お前は今のところLv.1だけど。まぁ、敵を倒したりなんなりすると、上がって、ある程度まで上がると次のLvに行くから。」
「へ、へぇ。Lvは、どこで確認するの?」
「そう。それなんだけど。今から落とすものを拾え。」
「すると、空から端末のようなものが落ちてきた。」
「何これ。」
「その端末の名前は、
すると端末が光り、Lv.1(残り990)と表示された。
「この残り990って何?」
「それは、次のLvに行くための残りの経験値だ。1000の経験値で、1Lv上がる。」
「へぇ。この端末これ以外に用途ないの?」
「ないが…。」
「は?使えな!」
神が、深いため息をする音が聞こえた。
「まぁ、そういうことだから。それで、自分のLvを確認しろよ。んじゃ。」
すると神の声が聞こえなくなった。エイシェントは
「もうちょっと剣を振ったら、この前の敵がいたところに戻って、倒してみようかな。最悪、神に頼れば良いし。」
すると、エイシェントは、またひたすら剣を振った。
エイシェントの進捗
Lv.1(残り990)
取得
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皆さん、こんにちは喜楽です。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。
この「でしゃばりな勘違い勇者は今日も行く」は、私の友人に許可を貰いながら書いている、私の友人を元にした物語です。エイシェントこと私の友人は、素直で、単純ですが、努力もできる人です。そんな友人が異世界に来て、勇者になるとなったら、きっとこんなことをするんだろうなと思ったことをこの小説に書いています。これからも、でしゃばりで勘違いだけれど、素直で努力のできるエイシェントをよろしくお願いします。
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