でしゃばりな勘違い勇者は今日も行く
喜楽
選ばれし者
ある朝、ある村の中に建っている一つの家の中で少年は騒いでいた。
「ついに、この日がやってきたんだ!」
勢いよく自分の部屋を出て、階段を駆け降り、一階にあるリビングへと向かった。
「あら、起きたのね。エイシェント。」
この少年の名は、エイシェント・コンスティッグ。勇者になりたい少年である。今日は、この村、カドル村の新たな勇者を決める日なのだ。というのもつい先日カドル村の教会から、こんな手紙が届いた。
「神から、魔王がもうじき復活するだろうとお告げが来ました。この手紙を貰った者は、20XX年X月X日の朝に教会にいらしてください。」
とその手紙には書かれていた。魔王の名は、
「さぁ、エイシェント。早く教会に行ってきなさい。抽選が始まっちゃうわよ。」
「分かってるよ母さん!物凄い楽しみだなぁ!」
エイシェントは、そう言うと猛ダッシュで家を出た。
* * *
教会には既に列ができていた。エイシェントもその列に並ぶ。先頭には、教会の神父がおり、並ぶ人々に数字が書かれた紙を手渡していた。エイシェントも神父から紙を受け取った。その時神父が
「貴方が神に選ばれし勇者なのであれば、これから行われる抽選でここに書かれている番号が選ばれます。」
と言った。元気良くエイシェントは、
「はい!」
と答えた。神父の配っている紙は、有限で、枚数が限られていた。そんな中、エイシェントまで、紙を配った時、その紙は、尽きたのである。エイシェントが最後に紙を受け取った者だったのだ。エイシェントの後には、沢山の人達が並んでおり、皆ガッカリしていた。
「では、紙を受け取った皆様は、教会の中にお入りください。」
と神父が案内したため、エイシェントを含めた。若い男女は、教会の中へと足を踏み入れた。
「それでは、これからくじ引きを引きます。そこに書いてある番号の者は、手を上げてください。」
エイシェントの紙に書かれている番号は、"9"だった。
「それでは、引きます。」
エイシェントは、手を合わせて祈った。神様!お願いします!俺を勇者にしてください!
「番号は…9番!」
「はい!僕です!僕!」
エイシェントは、とても嬉しかった。自分がついに勇者になったのだ。
「貴方が9番ですね?」
「はい!そうです!」
「お名前は?」
「エイシェント・コンスティッグです!」
「では、エイシェント様、こちらの勇者にしか抜くことができないという剣を抜いてみてください。」
「わかりました!」
エイシェントは、その剣を引き抜いた。ギラギラ光るその剣は、とても美しかった。
「これが…僕の…剣!」
エイシェントは、早速そこら辺で、剣を振り回した。
「危ないですよ。ここで剣を振るのは、お止めください。」
「あぁ、はい…。すみません。」
「それでは、貴方にこの鞘を託します。」
その鞘は、茶色の革でできており、とても魅力的なものだった。エイシェントは、その鞘に剣を入れ、身に付けた。
「貴方にもうじき神様の声が聞こえるようになるでしょう。そうなった時は、神様の指示に従い、是非魔王を倒してくださいね。」
「はい!わかりました!」
上機嫌でエイシェントは、家に帰った。
「母さん!僕、勇者になったよ!神様に選ばれたんだ!」
「あら!凄いじゃない!旅にはいつ出掛けるの?」
「わからない。神様の指示に従うのみだね。」
「そうね。神様のお告げが来たら教えてちょうだい。」
「うん!」
しかし、何日経ってもエイシェントの元にお告げが来ることはなかった。カドル村の人々は、もう一度再抽選しよう、あいつは選ばれし者じゃないと言い始める事態だ。しかし、神父は一貫して勇者の権限をエイシェントから変えることをしなかった。
「神様が選んだ方なのです。それは間違いありません。貴方達も見たでしょう?勇者エイシェント様が抽選により選ばれたのが。勇者エイシェント様を神様は選んだのです。」
そう神父が言うと誰も言い返せなかった。だが、エイシェントが神の声を一向に聞くことができないため、神の声が聞こえぬまま、魔王を倒してもらうしかないとエイシェントを除くカドル村の皆が考え始めた。なので、代表として、村長がエイシェントの家を訪れた。
「エイシェントさん、今日は大事な話があります。」
「なんですか?」
「貴方には神の声が聞こえぬまま、魔王を倒していただきたいと思っています。」
「え?」
「いつこの村にモンスターが現れ、村を襲うか分かりません。ですから、早いところ魔王を倒していただきたい。このまま神の声が聞こえるのも待ってばかりでは遅いと、村は判断しました。よって、4日後の昼にここから旅に出ていただけないでしょうか。」
「わ…わかりました。そうします…。」
村の為にもエイシェントは、旅に出ることを決意した。そして、4日後の昼、エイシェントは、カドル村の者(の内の数人)に見守られ、カドル村を出発した。
* * *
カドル村を離れると草原が広がっていた。その草原の臭いがエイシェントを更にワクワクさせるのである。エイシェントは、能天気に鼻歌を奏でながら、草原を進んでいった。そんな時、急にエイシェントは話しかけられた。
「よぉ。お前が新しい勇者か?」
「そ、そうだけど…君は何処にいるの?」
「俺は…ここだ。」
すると突然土が盛り上がり、人の形をした土ができた。
「俺の名前は
するとグラヴィスの腕が外れ、凄まじい速さで、エイシェントの額を殴った。すると、その土の拳は崩れ、地面に落ちていった。
「うわっ!」
エイシェントは、倒れた。物凄い痛かったのである。
(嘘だろ?まだ旅は、始まったばっかだ。それなのに…こんなところで倒れてしまって良いのか?)
「うぉぉ!」
エイシェントは、勢いよく立ち上がり、鞘から剣を取り出して、グラヴィスを切ろうとした。しかし、エイシェントの剣は、グラヴィスには、とどかなかった。
「お前の攻撃はそれだけか?ならば、またこっちから行かせて貰うぜ!」
グラヴィスは、また自分の肩から土の腕をはずし、今度はエイシェントの腹部を土の拳で殴り付けた。
「うっ!」
エイシェントは、また倒れた。その時エイシェントは、見た。瞬時にグラヴィスの腕が再生する様子を。
(ダメだ。このまま、まともに戦ったら、僕は死ぬ!)
そう確信したエイシェントは、自分の長所である足の速さで、ひたすら走った。
* * *
どれくらい走っただろうか。エイシェントは、森の近くまで走っていた。
「ここ、どこだろう…。」
自分のいる場所がどこかも分からず、いつグラヴィスがまた襲ってくるのかという恐怖に襲われ、エイシェントは、踞った。
「なんで僕がこんな思いを…。」
ひたすら走り、恐怖に襲われ疲れたエイシェントは、草原の上で寝転んだ。
「もう、勇者…やめたいな…。」
そうエイシェントが呟いた時、急にエイシェントの近くが光始めた。
「な、なんだ!?」
光が段々消えて行き、男が現れた。その男は、とても大きく、長髪で、髭を生やしていた。白い布を見にまとっており、いかにも神様の様だった。
「もしかして…神様?!」
そして、その男はため息を付いてこう言った。
「そうだけどさぁ…。お前でしゃばり過ぎだろ。"勇者じゃないのに。"」
「え?」
エイシェントは、言葉を失った。
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ここまで、読んでいただきありがとうございます。
喜楽と申します。
これからもこの小説を不定期ですが、更新を続けていく予定です。面白かった、この先が楽しみ等と思っていただけた方々は、是非☆を押していただけると幸いです。
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