step13:嫉妬を煽る level1
「遅くなってすみません」
「……んーん。大丈夫だよ。さぁ、―――」
白馬さんは最初こそ、遅い戻りの私を訝しんだ様子で見たけれど。流石そこは我が校で常に王子様ムーブをこなしているだけはある。
女の子がお手洗いから戻って来て、「遅かったね」は禁句。彼女自身が女子ということは勿論関係しているだろうけれど、やっぱりそういうところの気遣いは上手い。
おかげで私も新たな協力者である飛舵さんとのことを白馬さんに話さなくて済みそうだ。
白馬さんは私に両手を広げて、再び自分の膝元に私を抱き寄せようとするけれど……。タイミング悪く、そこでちょうど次の授業の開始を知らせるチャイムが鳴ってしまった。
「ざんねん」
「すみません」
「んーん。いいよいいよ。次はお昼休みで休み時間が長いから、そこで穴埋めはしてもらうつもり」
穴埋め………。
いつも抱き締められるだけだけど。他に何をされるんだろう。
まぁ、白馬さんに限って、度の過ぎたことはしないはずだし、どうせ私の匂いを嗅ぐくらいかな。
それはそれで結構恥ずかしかったりするんだけれど、白馬さんが望むなら、その時は甘んじて受けよう。
私は自分の席に座り、授業が始まってからもずっと思考を止めない。
せっかく協力者ができたのだから、今日のうちに何か一つくらいはアクションを起こしたい。
なにか、すぐに出来ることで白馬さんの嫉妬を煽れるようなこと、無いかな?
考えて考えて、プランに支障を来たさない程度のものを、私は一つ思いつく。
策自体はとても簡単だけど、白馬さんの嫉妬を一気に煽れるような、そんな策。
どうやら思考の海に溺れたまま、いつの間にか授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る五分前まで時間が経ってしまっていたらしい。
私はさきほど交換したばかりの飛舵さんの連絡先にとあるメッセージを急いで送った。
飛舵さんは教室後方の席。
メッセージに既読がつかない。後ろを向いて様子を確認することが出来ないけれど、そこはお嬢様だからか。
私とは違ってしっかりと授業を受けているのかも………。
そしてチャイムが鳴る。
のと同時に、スマホも震える。
『わかりましたわ』
そこには飛舵さんから、私のお願いに対する了承のメッセージが届いていた。
咄嗟に飛舵さんの方へと顔を向けようとすると………。
「ねぇ、さっき授業中に誰かとチャットしてなかった?」
私の目の前に白馬さんが立っていた。
彼女の席から、どうやら私がコソコソとスマホをいじっているのがバレたらしい。
「あぁ、ちょっと友達に………」
「友達?それってだれ??」
飛舵さんは協力者ではあるけれど、果たして私の友達と呼べるかは分からない。だけど、自然な解釈は友達が一番適してるだろうと思って白馬さんには友達と伝えた。
しかしまさか、ここで詳しく聞かれるとは思ってなかったから、どう答えようか迷う。
いや、でもこれは逆にチャンスなのかもしれない。
ここで飛舵さんの名前を出したら、白馬さんはどんな反応をする。
嫉妬を煽る良い機会かも………。
そう思っていると――――
「お待たせしましたわ。ほら、佐倉さん、行きましょう」
飛舵さんがタイミング良く私に話しかけてくる。おまけに、急かすように手を引いて。
「えっ?」
飛舵さんの登場には、流石の王子様も不意をつかれたのか、驚いた顔をしている。
「ど、どーゆーこと、かな?」
「はて?どうもこうも有りませんわ。ワタクシは今日、佐倉さんとランチを共にする約束を以前からしておりましたの」
凄い。完全に上手く流れに合わせてくれながら、私がさきほど提案した『お願い』にも繋げてくれている。
「ぼ、僕はそんなこと、一度も聞いてないんだけど??」
「あら?それは、それはじゃあ貴女は、佐倉さんから教えてもらえるほどの価値が無かったと、そういうことじゃなくて?」
「んなっ!??」
悪女。悪女がここに君臨している!
悪役令嬢が様になってるよこのお嬢様!!
「そ、そもそも、今日のお昼は僕と一緒にいるもんね?香ちゃん」
「えっ、と………。実は、今日は飛舵さんの言う通り前々からお昼ご飯を一緒に食べる約束をしてまして……」
「そ、そんな……」
露骨に落ち込む白馬さん。
彼女のそんな表情を見せられると、無性に心が痛む。今すぐ彼女にハグしたくなる。
今はこれくらいで良いかな、と思ってアイコンタクトを飛舵さんと取ろうとすると。
「………いったい、いつから君たちは仲良くなったんだい?」
「友情に時間が関係ありまして?」
「言えないってこと?」
「……べつに。そういう訳では無いですけれど」
「じゃあ、教えてくれないかな?」
「………ふんっ。ちょうど貴女が、佐倉さんから距離を置かれ始めた日、つまり今週の月曜日ですわ」
「……そっ、か。そっか。………そっか。うふ、うふふ」
「な、なんですの?」
白馬さんは、俯いて「そっか」と何度か呟いたあと、おもむろに笑い始める。
それは不気味なはずなのに、やっぱり白馬さんがやると、なんでも美しく、かっこよく、綺麗に見える。
「じゃあ、僕の勝ちだね」
怪訝な目で見る飛舵さんに、白馬さんは口角を上げ、嬉しそうに、自信満々に言った。
「だって、僕の方がずっと、香ちゃんといる時間が多いもんね!」
胸を張りドヤ顔する白馬さんの、この時の姿だけは、いつもの王子様みたいなかっこよさは何処にも無くて、ただただ可愛いに溢れていた。
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