step12:画策しよう

「貴女、有栖の、なんなんですの?」


 飛舵ひださんのその声には、うっすらと緊張が混ざっていた。

 私は答えに悩む。


「わ、私は有栖さんの………、ともだ――」

「―――恋人、ですの?」

「へ?」

「貴女たちは、好き合っているのでしょう?そうですわよね??」


 な、なんだろう。

 飛舵さんの私を問い詰める瞳が、なにやら期待に満ちている。気のせいだろうか。頬も少し上気させて、興奮気味のような………。


「ワタクシ、ここ数週間ほど貴女たちを観察してて思いましたの。貴女は有栖を運命の人だと確信して愛しており。有栖もまた、貴女がまるで待ち焦がれたお姫様かのように愛している。これってもう、デキてますわよね??」

「デ、デキてる!??」

「大丈夫です。みなさんがどう思っているかは分かりませんけれど、ワタクシもまた、ある意味、として、貴女たちのことを鑑賞―――ごほんごほん。見守りたいと思っていますわ」


 ………思ってたのと違う。

 もっと、飛舵さんからキツイことを言われると思って覚悟してたのに。


「その、応援してくれるん、ですか?」

「えぇ、それはもちろん。応援させていただきますわ。なんと言っても、貴女たちはワタクシの推しカプなんですから」


 推しカプ………。さっきも自分のことを姫って言ってたし、もしかして、もしかしなくても飛舵さんって…………。


「まぁ、応援してくれるなら、こちらとしても有難いです。でも、一つだけ聞いてもいいですか??」

「えぇ!なんでも聞いてくださる?」


 そう言って、飛舵さんはその豊満な胸をムンッと張った。


「さっきサラッと言ってた、有栖さんが私のことを愛しているっていうのは、本当ですか?」

「??? どういうことですの?貴女たちは恋人同士なのでしょう?」


 飛舵さんは私のことを、どうしてそんな分かり切ったことを聞くんだ?という目で見てくる。


「いやその、飛舵さんは誤解してて……」

「誤解?このワタクシが??」

「はい。実を言うと、私たち、付き合ってないんですよ」

「…………は?」

「告白は一応したんですけど、フラれちゃって」

「ちょ、ちょっと待ってくださる!??あ、あの距離感で、お、お二人は付き合ってないんですの!??」

「はい。今はもう一回最初からアプローチをしかけてる途中なんです」

「えぇ………。もうあの距離感は、完全に有栖も………………」

「有栖さんは人気者ですから。こんなすぐに私なんかには堕ちませんよ」


 せめて私の容姿が、あともう少しだけでも可愛かったなら。

 そう思ったこともあったけれど。そんなの意味が無いのだ。

 整形でもしなければ、見た目なんて変わらない。けれど、私はお母さんが生んでくれた有りのままの私で、白馬さんとお付き合いがしたいから。


 だから、見た目を考慮しないやり方で、彼女を堕とすしか無いのだ。


「………貴女、自己評価が随分と低いですわね」

「えっ?」

「まぁ、それを気付かせるのは、ワタクシの役目では無いですわね。それじゃあ、貴女のアプローチとやらに人手が必要になったなら、いつでも言いなさいな。ワタクシが手伝ってあげますわ」

「い、いいんですか!?」

「えぇ。推しカプを見守るのも大好きですけれど、推しカプが成立するのを手伝うのもまた、至高の喜びですわ」


 ふぅむ。

 私には彼女の言ってることがよく分からなかったけれど、とりあえず協力してくれることは分かった。


「あの……」

「???」

「さっそく一つ、お願いしてもいいですか?」

「なんですの?」


 私は飛舵さんの耳元に口を寄せ、そのお願いを口にした。


「え、えぇ?それ、ワタクシが嫌われません?」

「でも、これでアプローチももっと上手くいくと思うんです」

「………はぁ。……わかりましたわ。いいでしょう、協力してあげますわ!ただし!!やるなら絶対に成功させますわよ!名付けて———」


「「嫉妬を煽る大作戦!!!」」



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今回のお話は、書くのに二日も悩むくらい書きづらかった………

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