第二目標 『嫉妬を煽る』

step11:適度な距離感を測ろう

 私自身も辛かった、白馬はくばさんから距離を取ろうウィークの金曜日。

 なんと聞いた話によると朝一番に登校したらしい彼女の、思いもよらぬ奇策によって、私こと佐倉さくら かおりは白馬さんの膝上でされるがままにギューってされてる訳だけれども………。


「(くっくっくっ。しめしめ、だよ。まさかあの白馬さんが、こうも私の温もりに依存してるとは………。これは良い傾向だよね)」


 と、強がってみたり。

 実は結構、私も白馬さん成分が足りてなくて今興奮気味なんだけれど、それを悟らせまいと必死なのである。


 程よくして廊下にいたクラスメイトたちも踏ん切りがついたのか、ぞろぞろと教室に入ってきては皆、思い思いに友達たちと喋り始める。

 そうしてそれぞれの自由な時間を過ごしていると、朝のホームルームの開始を知らせるチャイムが鳴った。


「じゃあ、そろそろ離してください」


 担任の先生も時機に来るだろうから、白馬さんにそう言ったのだけれど………。


「んぅ。………もうちょっとだけ。こうしてたい」

「はぅっ!??」


 白馬さんに、さらにギュッと強く抱きしめられ、、、


「すぅ……はぁ……。やっぱり、香ちゃんの匂い、好きぃ♪」


 そんなことを耳元で白馬さんは囁いてくる。

 あ、あのあの!クラスメイトの子たちが、コソコソと私たちを観察してるの、気付いてないのでしょーか!??


「も、もうおしまいです!」


 私は耐えられなくなったので、少し強引に彼女の懐から離れた。


「ちぇー。………ふふふ。休み時間もおいで。今日からは逃げちゃダメだから、ね?」


 ぷくぅーっと白馬さんは頬を可愛らしく膨らませたあと、再びいつもの板についた王子様スマイルを浮かべて、そう私に言ってきた。


「~~~~~~~~っ//////////」


 これじゃあ、どっちが攻略してるのか分からないよ!






 休み時間になってから感じたことがある。

 それは………。


「ちょっと、お手洗いに……」

「あ、じゃあ僕も行こうかな」

「有栖さんはさっき、私を抱っこしながらわざわざ行きましたよね?」

「そうだね。香ちゃんもその時に済ませれば良かったのに」

「いや、そういうことじゃなくって」

「あ、もしかして、個室まで一緒が良かったのかい?それは流石に、僕も恥ずかしいよ」

「違いますよ!お手洗いくらい、一人で行かせて欲しいってことです!」


 ………なんだか、数日、白馬さんとの距離を置いた代償なのか副作用なのかメリットなのかは分からないけれど。

 白馬さんの私に対する距離感が、より一層近くなったような気がする。


 これもう、実は私に惚れてるんじゃない?って疑ってしまうほど、彼女の私の温もりに対する依存度が高い。


 でもここで勘違いしちゃダメなことぐらい、幾ら私でも理解している。

 あんなにモテモテのみんなの『王子様』である白馬さんが、たかだか私のこんなアプローチ程度で、簡単に靡くはずが無いのだから。

 きっと今は、私という今までにいなかった人種の扱いに戸惑ってるだけだろう。


 でも慌てない。

 まだまだプランの序盤である。ここで滅げずに、プラン通りにアプローチすれば、きっと彼女も………!


「はぁ……。わがままだなぁ、香ちゃんは。まぁいいよ。はやく行ってきな」


 兎にも角にも、白馬さんに解放された私はとりあえずお手洗いに行くことにした。そろそろ下の方が限界だったのだ。






 用を足して教室に戻る途中のこと。

 私はクラスメイトの一人に声をかけられた。


「貴女、ちょっと付き合ってくださる?」


 この子のことは、如何に私が白馬さん一筋でクラスメイトに一切興味が無くても知っている。それくらい、下手すれば白馬さん同等にこの学校で有名な子が、私なんかに声をかけてきたのだ。


 ロングの目立つ金髪を巻いたエレガントなお嬢様みたいな女の子。

 名前は———飛舵ひだ 紫燕しえんさん。


 実際に飛舵財閥のご令嬢なんだとか。


 どうしよう。

 そんな子に話かけられては、無碍にすると後が怖い。

 でも、きっと白馬さんが教室で待ってるし。


 うぅん。


「大丈夫ですわ。にはワタクシからも後で言っておきますから」


 私の懸念が伝わったのか、先回りされ逃げ道が塞がれてしまった。

 ここまで言われたなら仕方ない。あとで白馬さんには謝ろう。


 今はとりあえず、飛舵さんが先導する場所へと私はついていく。



 そして辿り着いた先は、一階の階段裏。

 人気の無い場所。。


 飛舵さんはその豊満な胸を支えるように腕を組み、私をキッと睨みつけながら、凛として言葉を放った。


「貴女、有栖の、なんなんですの?」


 その言葉の影には、うっすらと緊張が滲んでるようだった。

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