step6:外堀を埋めておこう①
さてさて。
初めて
私こと
主に物理的に。
最初の二日くらいはクラスメイトたちの皆が私のことを『王子様に付き纏って迷惑をかけている厄介メンヘラ女』と認識していたらしい。
盗み聞きではあるけれど、お手洗いでクラスメイトたちが私のことをそう言っているのを知ってしまったのだ。
………地味に傷ついた。
けれど、他人の目と評価を気にして『恋』なんて出来るのものか。
ただでさえ難しい恋なのに、他のことになんて気にしている余裕は私には無いのだ。
そして己を貫いた結果、白馬さんが私を拒絶していないことも相まって、周りの私に対する認識は『なんか知らないけど王子様と少し仲良さそうなメンヘラ女』へと変わった。
いったいどうして、私がメンヘラと思われているのか知ったことでは無いけれど。
それでも得られた情報は、どうやら第三者の人が見ても、私の積極的なアプローチを白馬さんは嫌がっていないということ。
これはデカい。
かなり順調に白馬さんと私の心の距離は近付いているのでは無かろうか。
と言うか、そうであってほしい。
まぁ、そんな私の願望はこの際置いておくとして………。
ここ一週間で行った彼女へのアプローチと、その結果どれくらい距離が縮まったのかを改めて自分でも確認しておきたい。
まず、私のここ一週間での目標は、ずばり、
【白馬さんに私の温もりを刷り込ませる】
と言うものだ。
いったいどういうことか。
それを知ってもらう為に、幾つかの『過去の出来事』を見てみよう。
◇ ◇ ◇
通話をした次の日、私はいつもよりも早く学校に行き、目的の人物を下駄箱の前で待っていた。
目的の人物というのは、もちろん白馬さんである。
「あ、おはよう
「おはようございます。………有栖さん。…………えへへ///」
白馬さんは人気者なのに、いつも朝は一人で登校してくる。
本当は彼女の後方に何人もの『ファン』らしき者たちがいるのだけれど、彼女たちは白馬さんと一定の距離を保ちたいらしい。
私は今日も一人で登校してきた白馬さんに、挨拶と名前まで呼んでもらえたことが素直に嬉しくて、はにかんだ笑顔が思わず溢れた。
以前までなら絶対に有り得なかったはずの出来事。人気者の白馬さんに名前を呼ばれ、挨拶まで先にされる。
私は確かな進歩を心の中で噛み締めていた。
そして、彼女の名前を堂々と呼べる幸福。
私は難しい恋に挑む挑戦者なれど、しっかりと砕けるリスクを背負うに値する対価も得られていた。
そして、自然な動作で私は靴を履き替えた白馬さんの手を取る。
「え?」
「どうしたんですか?ほら、教室に行きましょう?」
この時の私は、きっとイタズラが成功したような子どもの無邪気な笑みを浮かべてたと思う。
白馬さんは目をぱちくりとし、次に『してやられた』みたいな顔をすると、、
「あはは。そうだね。じゃあ、行こうか?お姫様」
そう言って逆に今度は彼女が私の手をギュッと軽く握り返してきた。
そして耳元で「お姫様」と私のことを呼ぶ。
これには一杯食わされた気分だ。
「なっ///なぁああ〜〜〜っ//////」
結局私は、顔を真っ赤にしながら手を引く白馬さんについて行き、教室に入った。
そんな朝のちょっとした駆け引きのワンシーンは、白馬さんに軍杯が上がったのだった。
しかし、本当の私の目的は別にある。
教室に手を引かれ入室した私は、見事に先にいたクラスメイトたちの注目の的になった。
これも目的の一つ。
印象がどうであれ、まずは私と白馬さんが近しい関係にあることを周りの人たちに知らしめる。
しかしこれも、一番の目的では無い。
白馬さんの手を握ったまま私は自分の席に荷物を置き。
そして座った。
彼女の手を引き、そして白馬さんの席の椅子に。
そんな私の奇行に、目の前の白馬さんも、そしてそれを見てたクラスメイトたちも大きく動揺する。目を見開き、驚愕する。
「そ、そこは僕の席、なんだけど?」
「知ってますよ」
「あの、僕は、立ってろってこと、かな?」
「違いますよ」
「…………えーっと?」
「ほら――――」
私はポンポンと自分の太ももを叩いた。
「え?」
「ここに、座っていいですよ」
私は晴れかな笑顔を白馬さんに向けた。
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長くなりそうなので、『外堀を埋めておこう』は分割して更新します。
そして、未だ6話しか更新していないにも関わらず、応援コメントやレビュー、などなど。たくさんの百合好きさんに本作品を読んで貰えて、作者としては嬉しい限りです。
今話からは糖分を増やしていくつもりなので、どうか王子様と恋の戦乙女の百合物語をこれからも応援してくださると嬉しいです。
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