step4:二人だけのトクベツをつくろう

 うちの女子校の『王子様』こと白馬はくば 有栖ありすさんと連絡先を交換した私は、帰宅した後に早速、彼女にメッセージを送る。


香『よろしくお願いします( ..›ᴗ‹..)』


 すると白馬さんもスマホを見ていたのか、すぐに既読がつき返信がきた。


有栖『可愛い絵文字だね』

有栖『よろしくね』


 タプタプ


香『今日は私のことを「もっと知りたい」と言ってくださり、とっても嬉しかったです!ありがとうございました(*´ ˘ `*)♡エヘヘ』


有栖『そりゃ、君は僕のファーストキスを奪った子だからね。意識するなって言われた方が無理だし。』

有栖『どんな子なんだろうって知りたくなっちゃうのは仕方ないよ』


 その文面を見て、私は不意にタプタプと文字を打つ指を止めた。


 改めて、『僕のファーストキス』という事実を字体に起こされると、気恥しいと共に初めてを私が貰ったという嬉しさと喜びも湧き出てくる。


 自身の唇に触れる。


 季節は秋。

 冬はもう、すぐそこまで迫っており、肌も乾燥しやすい。


 そんな時期の中、私の唇は潤っていた。


 手の甲に唇を押し当てる。


 ちゅぷ


 っとリップ音を鳴らし、昨日と今日、立て続けに私は白馬さんにキスをしたんだと現実が私の心を燻る。


「……また………したいな……///」


 気付けばそう呟いていた。


 なんだか、ついさっきまで彼女と空き教室で会話をしていたにも関わらず、今もまた無性に白馬さんと話したくなる。


 白馬さんの声が、聞きたくなる。


 そしてやっと私は白馬さんのメッセージに既読をつけたままだと言う失態に気付き、慌ててメッセージを送った。


 タプタプ


香『あの、一つお願いを聞いてくれませんか?』


有栖『どうしたの?』


 この先のお願いは、もしも叶うならば私の中での大きな進歩を意味する。


 学校では彼女の時間とプライベートゾーンを侵した。

 そして今度は、彼女のプライベートな時間までもを、私はもらおうとしている。侵食しようとしている。


 これは流石に強欲だろうか。


 文字を打つのを躊躇う。


 でも、私は彼女の日常の一部になりたい。

 彼女の時間をもらって、私の時間を共有したい。


 だから………


 タプ……タタタ………タプタプタプ


香『通話したいとか言ったら、ダメですか?』


 なんだ通話くらいで大袈裟な、と思うかもしれないけれど。

 好きな人と通話すること。そしてそれをお願いするということが、どれほど勇気がいることか。


 すぐに既読がつく。

 しかし、逆に向こうからの返信は遅い。


 五分経っても、十分経っても、返信は来ない。


 嫌われてしまった?

 流石に図々しかったかな。距離の詰め方、測り方を間違えたかもしれない。いや、それは最初から間違えていた自覚はある。


 モヤモヤと不安が私を締め付けていき、、、


有栖『寝る前だったら、良いよ』


 ドサッ


 私の床に置いたスクールバッグが倒れた。

 その音に肩がビクリと跳ねる。


 彼女とのメッセージでのやり取りに夢中になりすぎてて忘れていたけど。

 そうか私、帰ってきたばかりで何にもまだやってないや。


 夜ご飯も食べなきゃだし、お風呂も、明日の宿題も。

 そして先ずは制服を脱いでルームウェアに着替えないと。


 そんなことすら、後回しにしてしまう。


 まったく今更感じる。


 白馬 有栖さんは罪作りな女の子だ。


 私は彼女の時間を侵食しているつもりでいたけれど、彼女は知らない内に私の時間も、心も丸ごと侵食して、蝕んで、それでもまだ尚、侵し続けているのだから。


「(そうだね。確かに、今から通話なんてしたら、やらなければいけないことが出来なくなる)」


 そんなことを考えて『わかりました』とタプタプしていた途中、はたと気づく。



 あれ?



 と言うことは、つまり………??



 やること全てを終わらせて、あとは寝るだけの状態で通話するということは。

 それは、通話の時間制限が無いということ。


 どちらかが寝落ちするまで、長時間通話が出来るということ。




 もしかして、それを踏まえた提案だったり、する?




 彼女からの返信が遅かったのは、つまりと捉えても、いいのだろうか。

 そうだったら、嬉しいな。


 タプタプと了承の返信と、通話が楽しみだという内容の文面を打ち、それも送信しようとしたところで————



有栖『ちなみに、家族以外の人と通話するのも、初めてだから』

有栖『いったい君は、僕の初めてを幾つ奪ってくれるんだろうね笑』



 —―――私の思考はフリーズした。


 そんな『はじめて』もあるのか。

 なんだか彼女の『はじめて』を私が奪うに連れて、私が白馬さんのトクベツであるような錯覚に陥る。


 いや、もしかしたら本当に、私は彼女のにはなれているのかもしれない。


 そうあれたら良いなと願いながら、私はスマホを机の上に置いて、動きだした。



 ◇ ◇ ◇


 佐倉さくら かおりちゃんは、わかっているのだろうか。


 彼女が僕にとって、もう有象無象の群衆の一人では無いということを。

 しっかりと理解してくれているのだろうか。


 そもそもね?


 いつも僕に好意を伝えてくれる学校の子たちは、僕に近寄ろうなんて、本気で思ってないんだよ。


 何が言いたいか、わかるかい??


 彼女たちはみんな、僕のことをお気に入りのオブジェとしか見ていないんだ。僕の内面を本気で知ろうと、近付こうとする人なんて、全然いない。


 つまりね。


 身内以外で、僕が連絡先を交換したのも、本当は君が初めてなんだよ。

 まぁ、これはまるで僕が友達いない子みたいに思われるかも知れないから、絶対に僕の口からは君に言ってあげないけどね。



 でも、もっとそういう自覚、持っててくれたら、嬉しいな。

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