step3:間接的にも距離を縮める

「そんなに近いと、恥ずかしい、かな///」


 うちの女子校の『王子様』こと白馬はくば 有栖ありすさんは手の甲で口元を隠し、頑なに私と目を合わせようとしない。


 さっきようやく合ったけど、すぐに逸らされてしまった。


 しかし、恥ずかしい?


 彼女は怒ってる訳では無いのかな?

 確かに今日の一連の彼女の行動は、私に対して怒ってるよりも恥ずかしがっていると考えた方が辻褄が合う。


 ならば、ここで彼女の要望通りに素直に離れるのでは無く、敢えて踏み込んでみる。


「私は、白馬さんを近くで見つめていたいです。これはダメ、ですか?」

「いや、ダメ……じゃないけど。その、大事な話をしたいから」

「このままじゃ出来ませんか?」

「ぅえ?」

「このままじゃ、出来ない話ですか?」

「ひゃう。ちょ、ほんとに、近っ///」


 耳元に口を寄せ、その形の良い耳に、吐息がかかるほどの距離で私は言葉を紡ぐ。


 白馬さんの表情を間近で観察すると、いつもの王子様と呼ばれている彼女の面影は何処にも無く、むしろ完全に乙女の顔をしたお姫様みたいだった。


 ここまでやっても、彼女は私を怒るどころか、無理やり拒もうともしない。


「(………本当に、私の勘違いだったのかな?怒られは、しない??)」


 彼女はギュッと目を固く瞑り、プルプルと肩を強ばらせて震えていた。


 距離を一気に詰めすぎたかもしれない。


 私は前のめりになっていた姿勢を元に戻し、ほんの僅か気持ち程度に白馬さんと私の座る椅子の間の距離を空けた。


 白馬さんは若干涙目になりながら、距離をとった私を見て「ホッ」と安堵の息をもらす。


 そこまで安心されると、やっぱり私はまだ彼女の想い人にはなれてないことを実感させられているようで、少しばかり心にくる。

 いや、でも大丈夫。


 まだ告白して二日目だから。

 昨日の今日だから。


「それで、話、とは?」

「あぁ、昨日君は、僕にその、、キ、キス///………を、しただろう?」

「はい」


 何をそんなに照れることがあるのか。


 私は恥ずかしかったけれど、白馬さんほどモテる女の子が、まさか高校二年生にもなってキス未経験って訳でも無いだろうし。


 


「それでその。ま、まずはね。そのぉ、どうして僕にいきなりキスをしたのかを、聞きたくてね」

「それは単純明快です。私がしたかったからです」


 バカ真面目に「貴女の印象に残るためにキスをしました!」なんて失言はしない。

 実際、私がしたかったことも事実だし。


「し、したかったから………か。それは、僕を好きだから、なんだよね?」

「はい。昨日も言ったとおりですが、それが理由です」

「そう、か………」

「あの、やっぱり嫌でしたよね?」


 当たり前だろう。

 自分で質問しといて何だけど、そりゃ好きでも無い子にキスされて嫌じゃない訳ない。


「え?」

「え?」

「嫌………だったの、かな?あれ、うーん?多分、嫌では、無かったと、思う」

「そ、そうですか///」


 あれ?嫌じゃないって、それってつまり……。


 いやいやいや!

 何でもかんでもポジティブに考えすぎだよ私。


 あんなにモテる白馬さんが、まさか幾ら予想外とは言え、キスされただけで堕ちちゃうなんてこと、ある訳ないもん。


「そ、そそ、そんなことより!」


 私がキスを嫌じゃなかったと言われて少しばかり照れてしまったせいか、白馬さんも頬を赤く染めながら強引に話を戻す。


「その、正直まだ、恋愛にはこれっぽっちも興味は湧かないんだ」

「………そう、ですか」

「うん。でもね?……君のことは、もうちょっとだけ知りたいとも思ったんだ」

「え?」


 そ、それはほんとですか!??


「だから、大事な話というのは、正にこれのことで。これからもこうして、僕と君、二人きりだけの時間を作っていくのはどうだろうか」


 私が急な展開に驚いていると、白馬さんはそんな願ってもみない提案をしてくれた。


 これはチャンスだ。


「ぜ、是非そうしましょう!わ、私も、もっともっと白馬さんに私自身のことを知ってもらいたいです!!」

「そ、そっか。……えへへ、ちょっと嬉しいかも///」

「っ!??」


 な、なんだなんだ、今の不意打ちの乙女の顔は。そんな急にニヘラと可愛く微笑まれると、心臓に悪い。


 好きが溢れすぎて、どうにかなってしまいそうだ。


「そ、それじゃあ、私のことを知ってもらう為にも、連絡先を交換しませんか?」


 そんな提案を今度は私からしてみる。


 物理的に距離を縮めるためのスキンシップも勿論大切だけど、それと同じくらいに、こう言った連絡先の交換やスキンシップ以外のちょっとした距離の縮め方で、白馬さんの私に対する印象を変えたい。


 彼女の脳内を占める『私』の割合を、少しでも増やしたい。多くしたい。大きくしたい。


「うん。勿論いいよ」


 そうして私と白馬さんはお互いに連絡先を交換した。


 これで、家に帰って傍にいない時間でもお話をすることは可能になった。

 一つ、白馬さんの生活の一部に自分が入れたような気がした。


「改めて、これからよろしくお願いします。白馬 有栖さん」

「あはは。まるで付き合いたてのカップルみたいな挨拶だね。………うん、こちらこそ。……よろしくね。佐倉さくら かおりちゃん」



 あ。初めて名前を呼ばれた気がする。



 私の名前。知っててくれたんだ。



 なんだかそれだけで嬉しい。

 心が温かくなる。

 胸がポカポカする。


 だから………


 私はその衝動に身を任せて。



「じゃあ、今日はこれでお開きに―――ん」



 ちゅ。



 昨日よりも短いキス。


 だけどこれで、私は更にポカポカになれた。


「な、ちょ、へ?まっ、また///」

「それじゃあ白馬さん、また明日♪メッセージも送るので、見てくださいね♪♪」


 私は今日一番、顔を真っ赤に染めた白馬さんを置いて、昨日と同じように、空き教室からタタタッと飛び出した。


 足取りはずっと軽かった。



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本作品は楽しんでもらえてるでしょうか。


百合好きの読者様と一緒に悶えたくて本作品を書いているのですが、それでも私一人の感性では至らない箇所も多々あると思います。


アドバイスやこの先の展開に対する要望などなど。そういったものを頂けると嬉しいです。


あと、ここからは二日起きに更新出来るように頑張ります。


応援してくださると、私も頑張れます。

( *¯ ꒳¯*)ドヤ

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