第9話 魔道国ダイヤ

「この前は助かったよ」

「いえ、大したことはしてませんから」

「またまたぁ~」


 『入江の魔女邸』の扉の向こうから声が聞こえてきた。お客さんがいるのだろうと思い、待っているとおばあさんが出てきた。こっちに会釈をすると、そのまま大通りの方へと消えていった。


「あ、おかえりなさい。どうだった?」

「どうってお姉ちゃんが出てきて色々めちゃくちゃよ」

「え~いいなぁ、アリサ様に会えたなら私も行けばよかった」


 ぶーぶーというかのように文句を言うイア。そのことをさらっと片付けてしまうアイリ。そんな二人を俺は扉の前に立ったままずっと見ていた。


「イア、夜ご飯でも食べに行きましょ?」

「え、あ~う~ん」

「ダメ?」


 悩むイアと、キラキラとした瞳でじっと見つめるアイリの駆け引きが広がっていた。


「ごめんなさい、二人で食べてきて」

「そう」


 しゅんとまるで猫がおやつをお預けされたかのような反応をするアイリが、静かに俺の方へと歩いてくると、小声で「いこ」っと一言だけ言って先に出て行ってしまった。


「じゃあ行ってくるわ」

「うん、いってらっしゃい」


 少し暗い笑顔でイアは俺を送る。そのまま外に出て、アイリと一緒に歩くが、ずっと口を閉じたままだった。


「なぁ」

「うん………」

「アイリ?」

「うん」

「お~い」


 足を止めてアイリの前に立つとすぐに止まり俺の顔を見上げて見つめてくる。何も言わず、頭を撫でると、しょぼんとしていた表情が一気に明るくなったような気がした。


 大通りに出て一番輝いている店に入る。店員に接待されるまま窓際のテーブルに通され、そのまま席に着くとメニューを目の前に広げられる。


「とりあえずこのコース二つで」

「かしこまりました」


 俺がそういった途端店員はそのままどこかへと行ってしまった。じっとアイリの事を見つめながら、今回は冒険者ギルドのように騒がれないなと思う。


「どうしたの?」

「いや、騒がれないなぁって」

「あれのせいかなぁ」


 アイリが指さした場所には金属の板に文字が書かれていた。


『お客様の身分を一切公表いたしません』


「なるほどな」


 納得していると、コース料理が始まった。すべてが美しく輝き、すべて美味い。さすがというべきほどのものだった。会計を済ませんようとすると、小声で「陛下からはいただけません」と言われ、会計せずに店を後にした。


「美味しかった」

「だなぁ」

「ねぇ」

「ん?」



 とっさにアイリの方へと視線を向けるとそこには誰もいなかった。目を疑い、足を止めると空を見ると、漆黒のような羽を背中から生やし、白銀の髪を揺らす彼女がそこにはいた。


「国民の諸君、こんばんは。私アイリ・ダイヤは、ここに龍の谷、世界樹の森、鉱山の都を統一させ、魔道国ダイヤを改めて再び建国することをここに誓う」


 大声で世界中に響くようなアイリの声が聞こえてきた。なぜ彼女が今になってこのことをここで言ったのかわからない。


「そして、イア・ダイヤに王位を譲渡するとともにこの日を持って私、アイリ・ダイヤは、隠居することを宣言する」


 そんなことを代々的にいうと町全体から「うおお」という声が聞こえた来た。それと共に「なぜ?」という声も聞こえてくる中で、俺は大きなため息を付いた。


「やってくれたぜ………」


 下を向いたアイリと目が合うと、ニコっと笑顔になり、そのまま俺の元へと落ちてくる。危ないと思って受け止めると一気に歓声が上がった。


「あのさぁ、そこは飛べよ………」

「やだぁ~疲れたもん」


 ぎゅっと俺を抱きしめてアイリが言うと、そのまま俺は歩き出す。


「なぜ今建国の宣言なんかしたんだ?」

「そ、それは………」


 そのしゅんとした顔に見覚えがあった。イアに夕飯誘った際に、断られ落ち込んでいる時のだ。あの時すでに二人の中ではこのことを言うことを決めていたのだろう。


「達樹とその………」

「ん?」

「今日みたいに何もない日々を送りたいなぁって思ったから」


 ふ~んっと流していると、周りから俺のことを知りたがるような声が上がり始める中で、何も言わずそのまま帰路の方へと向かっているとイアの声が聞こえた。


「なんで私なんか………」

「姫様。落ち着いてください」


 知らない男の声とイアの声が路地裏の方から聞こえてきた。何も言わずに通り過ぎようとすると目が合ってしまい、その場で足を止めてしまう。


「パパ………」

「ああ、後は頼んだぞ」

「え?」


 俺はそれだけ言い残すと、その場から消えるかのように立ち去った。少し前でアイリが壁にもたれながら待っているのを見つけ、その場所まで走り合流する。


「この後どうするつもりだ?」

「あ………考えてなかった」 


 突然ピタッとアイリが止まるとその場で何も言わずまるで文章でも読んでいるかのように、瞳が右から左へと動いていた。メッセージでも来たらしい。


「とりあえず城までゲートでも出せるか?」

「ん? 無理」


 無理という言葉に、なんでという疑問がわくと、アイリが魔法で転移魔方陣を唱え始め、俺達はいつの間にか光に包み込まれていた。

 



  


 

 

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