第8話 血液の秘密

「達樹、君の身体にアイリの血液が入り込んでいる」

「は?」


 エリシアからの意外な言葉に耳を疑った。なぜアイリの血液が自分の身体に入っているのか、全く想像すらできなかった。


「達樹………その………ごめんね」

「え、いやまぁ別にいいんだが」


 アイリは、俺のその返事が待っていたかのように表情が明るくなる。その様子にため息を付いているエリシアが、俺の左肩を触れていた。


「っ………ちょ………」

「やはり数滴だけど入っているみたい。どうしようかしら………」

  

 触れた途端、そのまま空中にウィンドウを出しながらずっとブツブツとつぶやくようになってしまった。研究者の熱心な情熱の様な物が見えるような気がした。


「入ってたらなんかあるのか?」

「私になっちゃうくらい」

「アイリになれるなら結構得じゃね?」

「そうだけど………」


 アイリと話しているとエリシアがその様子を見てニヤついていた。その様子に気付いたのか、慌てだしてしまう。


「二人でもう答え見つけたなら早くここから出てって……あ、これだけは私といてあげるから」


 エリシアが俺に布袋を渡すと、俺達は、いつの間にか洞窟の外に出ていた。俺達を探していたのかアリサがこっちに手を振って走ってくる。


「ほんとによかったの? ママなら私の血の影響治せたのに」

「アイリの事もっと理解できるなら、逆にいいのかもって思っただけだ」


 アイリの方を見ると顔と耳が真っ赤になって、俺の左腕をがしっと抱きしめていた。エリシアが俺達の元へたどり着くと、領主が、街まで馬車で送ると言ってくれているというので、走って山から下山することになった。


「アイリ~さっき何話してたの? 顔赤かったけど」

「別に、お姉ちゃんには関係ないもん」

「え~そんなぁ~」


 ちょっかいをかけるアリサと誤魔化そうとするアイリ。二人を後ろからずっとその様子を見ていてなぜか心が安心するよう泣きがした。ほんとに姉妹なんだなぁと思いながら下山する。


「陛下!」


 馬車の近くから領主の声が聞こえてきた。俺達はその側へと向かおうとすると、途中でアリサが消えてしまう。森の方へ視線を変えると、ギリギリの境目の場所で、にっこりと笑顔で手を振っていた。


 アリサに見送られながら、馬車へと乗り込む。隣にアイリが座り込み、俺の方へと肩を寄せてくる中で、領主が俺の目の前に座った途端、馬車が動き始めた。


「しかし驚きました。あの魔王様が人間に転生していたなんて」


 領主がそんなことを言うと、アイリがきょとんとしていた。魔王をしていたときは呪いの影響でフルプレートの鎧を身に纏っていたため、俺が人間であったことを知る人は数えるほどしかいない。


「アイリは、俺がいない間王の座を全うしてたんだろ?」

「うん………すぅ………すぅ………」


 返事と共にかわいい寝息が聞こえてくる。まだ昼間だというのにアイリは疲れてしまったようだった。領主がマジックバックから毛布を出して俺に渡してきた。そのまま少し俺にかかるように彼女の背中かける。


「こいつ、結構人見知りだから王なんてできないと思ってたんだけどなぁ」

「あ、いえ、財務等はしていたみたいですが公の場に出るのはここ百年ほどないですね」

「あ、はい………」


 つまり、百年ほど城から出ずに引きこもっていたのだろう。国を運営しつつずっと光を浴びずにいるのは確かに吸血鬼にはありがたいが、始祖であるアイリにとっては、ないも同然のはずだ。


「イアがよく城に行っているとは聞くが………」

「はい。姫様なら今年王都にお伺いした際もお姿を拝見いたしました。ですがやはり陛下のお姿を久方ぶりに拝見しました。父から魔王様が生きていた際、かなり公の場に出ていたのを聞いております」

「あ~あれな。半強制的に連れ出したようなもんだから」


 と言っていると、馬車が町の門を通りすぎ、辺境の街 モルトケへと入っていった。冒険者ギルド前で止めてもらい、アイリをお姫様抱っこしながら、領主の馬車から降りてその場で別れた。


 冒険者ギルドに入ると、以前のような嫌な視線はなくなっていた。そのまま受付の方へと向かう。


「あ、おかえりなさい。依頼どうでした?」

「あー見つけて依頼人に直接渡してきました」

「え? え〜と」


空間魔法から薬草取っていた時にエリシアに渡された依頼達成書類をカウンターの前に出すと、驚いて固まってしまう。


「お腹すいた」

「あーもう昼かイア誘ってどっかいこう」

「うん!」


そのまま放置したままギルドを後にした。

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