第7話 洞窟へ
あわあわっとした姿のアイリが馬車に乗ってこっちに来ていた。何してんだあいつ。
「アイリ!」
プイッというかのようにほっぺを膨らませて、馬車からアイリが降りてきた。その後ろには、どこか見覚えがあるような青年が立っていた。
「巫女様、すみません突然お邪魔して」
「いえいえ」
その青年は、一側鎖に俺の隣にいたアリサに声をかけていた。俺は、まだほっぺを膨らませているアイリの前に立つ。
「置いてったのは悪かったよ。ただここだとお前がつらいだろ?」
「………」
無言でアイリは俺に抱き着いてきた。この近くの洞窟で彼女は、封印されていた。なぜ封印されていたのかは、解いた時にわかった。彼女自身が五百年前の元凶であることだった。このことは、アリサに合わせてから知ったことである。そのためここに来させるにはかなり彼女に負担が要していた。
「大丈夫だって、俺がお前を支えるって誓ったろ?」
「………うん」
小さい声で返事が返ってきた。アイリに左腕を抱きしめられながら、森の近くにいるアリサの元へと向かう。
「あの子覚えてる?」
アイリが目の前の青年を指さす。俺は首を横に振る。
「どこかで見覚えがあるんだが………」
「あの子、この街の領主」
「あ~あのうっさいおっさんか」
「うん。その孫」
そっかっといってそのまま二人の元へと着く。アイリがギルドにいたせいで領主自ら出てくるしかなかったのだろう。そういえばイアは………
「おね………」
「うん、大丈夫。アイリ、達樹と再会できたのね」
アイリは俺の手を離れて、アリサに抱き着く。その様子はまるで姉妹の様だった。種族が血がえどエリシアから生まれたれっきとした姉妹だ。
「ほんとにあの魔王様なんですね」
「え? どして?」
青年が俺が腰に掛けてい剣を見つめる。それには王家の紋章と結晶化したアイリの血が取っ手の部分に付着していた。
「あ~なるほどな」
「はい。一度父と晩餐会でその剣と陛下の素顔を拝見していますので」
なるほど、彼が俺を魔王と知っているのがよくわかった。だが、二百年という年月が経っているため人間では普通無理だ。
「レーザ、貴方も彼の事は内緒ですよ?」
「はい! 叔母様」
えっと目を疑うと、アリサと目が合い、情報が頭に中に入ってきた。世界樹の森のエルフが人間と恋に落ちて、彼を産んだこと。そのエルフはここの長だったためにこうなっているのだとか。
「いただきます」
そんな声が耳もとで聞こえると、アイリが俺の左肩に噛みついて血を啜っていた。
びっくりして、後に倒れそうになるが、突如発生した風によって体制を取り戻す。
「アイリ、あなたね!」
アリサが血を吸っているアイリを怒鳴る。だが、そんなこと関係なさそうに血を吸っている。さすがに懲りたのか俺から降りるとそのまま左腕にしがみついていた。
「お姉ちゃんのバカ」
小さい声でアイリが言うとそのまま俺の左腕を引っ張る。必死にどこかへと向かうかのように草原を走る。
「どこにいくんだ」
「………」
返事が返ってこない。お互い走っていたせいか、息を切らしながら山を登る羽目になる。世界樹の森近くにある山と言えばあそこしかない。必死になって足を止めると、アイリの足もピタッと止まった。
「あそこに行くつもりなのか?」
「………」
アイリは一瞬俺の方へと振り返るも、すぐ前を向いてしまう。離したくないのか俺の左腕をずっと抱きしめている。その腕は少し震えているような気がした。あの洞窟には、彼女以外目立ったものがなかった。なぜそこへ行ったのかは、いまだに思い出せない。
「………いこ」
「あ、ああ」
そのままの状態で洞窟へと向かった。今でもそこには洞窟があり、最近誰も来ていないことが、地面でわかる。ここだけまるで時が止まっているかのようだ。
「相変わらずここは何もないな」
とっさに言葉にすると、アイリが魔法で光を出して、洞窟全体を照らし始める。見るからに普通の洞窟だった。だが、彼女は不思議そうに洞窟の壁沿いを歩き始める。
「ここ」
アイリが地面を指さす。そこには今まで誰かいたかのような足跡と、瓦礫が落ちていた。ここで俺とあった場所なのだろう。
「ついてきて」
震えていた手はいつの間にか収まっており、俺からアイリは少し離れ位置にいた。背中を追いかけて洞窟の奥へと入っていく。こんなにも広かったのかと感心するも、やはり何もない。
「どこいくつもりなんだ? もう行き止まりだぞ?」
「うん、多分ここ」
アイリが、行き止まりの壁を小さな指先で押す。すると、岩壁が突然動き始め、その奥には人工的に作られたと思われるものたちが散乱していた。まるで研究所の様だ。
「全く………賢くなって戻ってきてといったけど彼も連れてくるなんて………」
部屋の奥から声が聞こえてくる。どこかで聞いたことがある声が、部屋全体に響き渡る。すると、アイリが俺の方へ近づいてきて、左腕に抱き着いてきた。
「アイリ、そして達樹、あなた達が入っていい場所ではないのよ?」
奥から足音を立てながら姿を現したのは、白衣姿のエリシアだった。俺の今の身体を作っていたときの彼女と同じ服装だ。
「ママ………」
不安そうな声をアイリが出す。するとエリシアがアイリの元へと近づき、そのまま彼女の頭をなでながら「大丈夫」と言っていた。
「話は分かったわ。達樹とアイリの事なんだから私は関与するつもりもない」
はぁっとため息をつくエリシア。そのままアイリの口に触り、牙を見ていた。
「やっぱり………達樹、この子に甘いもの食べさせてる?」
「最近は知らんが、以前はくそハマってたぞ?」
「なるほどね~」
一気にアイリの表情が暗くなっていく。落ち込みだしている彼女を見ながらニヤニヤとしているエリシアが俺の耳もとで「これは食べてるね」っとクスッと笑っていた。
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