第6話 冒険者ギルドへようこそ
外に出ると、目の前を人々が通り過ぎていた。昨日気付かなかったが、人間だけではなく、獣人やエルフ、ドワーフ、竜人など様々な種族が歩いていた。そういえばこの町魔王領だったか。
「どこいくの?」
隣でずっと俺の左腕をだきしめているアイリが聞いてきた。そんな様子がかなり珍しいのか、周りからの視線が痛い。
「どこって、とりあえずアリサのとこに行くつもりだ」
「おねえちゃんとこって世界樹の森?」
「ああ、アイリを連れて行くって約束したからなぁ」
「ふーん」
アイリが黙り込むと、俺の左腕を引っ張る。南門とは違い、街の中心の方へと彼女に導かれる。「どこいくんだ」と聞くが、彼女は無言のまま何も言わない。だが、歩くのをやめると目の前には、ギルドと書かれた場所についていた。
「冒険者ギルドか?」
「うん」
アイリが建物の扉を開けて、俺はそれにつれて中へと入っていく。懐かしい空気と共に、がやがやと冒険者たちが交流していた。そんな中を俺達は受付の方へと向かう。
「いらっしゃ………へ、陛下!」
受付嬢のその声と共に先ほどまでのざわつきがやむ。受付嬢は、なんでこんなやつが陛下の隣なんかにみたいな目でこっちを見ているが、そんなことに気にせずに、固まっているアイリの頭を撫でる。相変わらず人見知りは健全みたいだ。
「え、えっと………」
「あ~世界樹の森入りたいんですけどどうしたらいいですか?」
変わりに言うと、あわあわっと受付嬢がなにか分厚い書物をどこから出して調べ始める。
「なんだあの人間」
「あんなのが陛下の?」
「いやいや魔王様の妃様だぜ?」
そんな声が聞こえてくると、アイリはきにせずにそのまま俺に撫でられている。受付嬢が、書物を見せてくれると、そこには危険領域『S』と書かれており、冒険者ランク 『入るには、SあるいはAランクが五人ほど必要』と書かれていた。
「ど、どうでしょう?」
「………」
ぴくぴくっと耳を動かしているも真っ赤に染まっているアイリを見つめる。だが、やはり何も言えなくなってしまっていた。
「とりあえずこれまだ使えるか?」
勇者時代の冒険者カードを受付嬢に渡す。しかし、首を横に振ってしまい、使えないらしい。そのことを知ったアイリは、俺に抱き着いてきた。まるで拗ねた子供のように。
「あの………貴方は陛下とは一体?」
「あ~」
ある紋章を魔法で作り出す。それは結婚式の際に自分達の証が欲しいと思って遊び半分で作ったものだ。これ自体かなりの高等技術であり、俺とアイリしか作り出すことができなかった。
「そ、その紋章は………ま………魔王様………」
「あ~めんどくさいことになるからなんもいうなよ?」
怖い顔で受付嬢に言うと、コクコクっと頷いた。新しくFランクから始めることにはなったが、何とかなるだろう。そういえばあれからアイリが何も反応してない。アイリの目の前でしゃがみ込む。
「お~い、アイリ」
「達樹?」
「お、目覚めたか」
人見知りすぎてたまに気絶することがある。それが発動してみたいだった。陛下と呼ばれていたということは、あれから王座を引き継いだのだろう。かなりの重みを彼女に押しつけたみたいだった。
「冒険者なれた?」
「ああ、とりあえずランク上げしてくるから上で待っててくれ」
「ギルドマスターに話してもいいけど?」
「あのおっさんたちか? いやだよめんどくせぇ」
俺は、そのまま掲示板の方へと向かい、今のランクで受けれる『世界樹の森近辺で、薬草採取』を選択して、外へと出る。途中イアに会い、アイリが冒険者ギルドで接待されていると言ったら、飛び出してしまった。
「アイリの人見知りかなりえぐいからなぁ」
独り言のようにつぶやきながら、街の外へと出る。依頼にあった場所へと向かうと、そこは世界樹の森だった。ぽかーんっとしていると柔らかい感触と共に声が聞こえてきた。
「達樹!」
「ちょ………アリサなんでお前がここに」
アリサが俺が持っていた依頼書を指さす。よく見ると依頼人が、世界樹の巫女アリサと書いてあることに気付いた。適当にとったはずなのに、まるで偶然ではないみたいだ。
「な、どういうことだ?」
「簡単な知識だよ? 達樹自身この森のほぼすべてのこと知ってるでしょ?」
「まぁ一応な」
魔王をしていた際、世界樹の森とも交流していたために、森の隅々を探索していた。そのために素材の場所や、魔物の生息地などすべて頭の中に入っている。これも勇者の特典としてエリシアから貰ったスキルだ。
「冒険者ギルド何回も崩壊してるから、達樹がFランクなのもわかったので」
「なるほどなぁ、とりあえず薬草貰って言っていいか?」
「構いませんよ?」
世界樹の森の中へと俺達は入っていく。森に導かれるかのように目的の薬草を見つけることができた。勇者時代で受け継いだことを生かし、薬草を採取する。
「この匂い………」
「どうかしましたか?」
「ちょっとな」
ほのかに香るその匂いの方へと足を進める。すると、金木犀の木が生えていた。なぜここに生えていたのかわからない。ただ、あちらの世界との関係があるのだと思った。
「この木………初めて見ました。それにしてもいい香りですね」
「ああ、そうだな」
金木犀の花が咲いているため、木の周辺にはその香りがかなり匂う。しかし、不思議と嫌にならないその香りは、どこか落ち着く。花を三つほど取り、一本をアリサに渡した。
「良いのでしょうか」
「いいさ、縁起がいい木だから、そのまま持っててくれ」
「分かりました。そちらの二本は」
「ああ、アイリとイアにあげるつもりだ」
「そうですか」といってアリサがその場で黙ってしまう。俺達は自然ともりの外への道へ向かっていた。いつの間にか森の外に出ていた。
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