第4話 吸血鬼のアイリ
『入江の魔女邸』に入ると、イアがやっと俺から離れて店の奥へと行ってしまった。店の商品を見ていると扉が開く音が聞こえてくる。
「すみません。本日の営業は………」
イアが奥に行ってしまっているため、お客さんの対応は俺が言わないといけないと思いとっさにそんなことをつぶやくと、言葉が止まった。
「ア………アイリ?」
目の前には、長い白銀の髪と血のような緋色の目、白と赤の色が大胆に入っているドレスを着ている少女がそこに立っていた。
「あの子に手でも出したの?」
「は?」
「答えて!」
アイリが俺に詰め寄ってくる。ほんのりと甘い薔薇の香りが広がる。
「いやいや、お前以外に手出すわけないだろ。てかなんで娘に欲情しなきゃダメなんだよ!」
「ふーん」
ぷくぅっとほっぺを膨れませると、アイリは、両手を広げて、抱っこをせがんでくる。俺は、機嫌が戻るならと思い彼女の身体を両手で抱きしめる。
「はわわわわ………」
カウンター前の方から声が聞こえると、私服姿のイアがで顔を赤くして固まっていた 。そっちの方を見せいたせいか、アイリに首を正面に戻され、そのままキスされてしまう。
「………わわわわわ」
口を離すと、アイリはイアの方に向かってにやっいていた。やってやったぞて言わんばかりの表情だ。
「もう一回しよ?」
「いやいや、これ以上はイアが………」
頭から蒸気を出してその場に倒れこんでいるイアを見つける。そのことを見ていたアイリが、俺を解放してくれいぇ、すぐさまベッドへと運ぶ。
「大きくなったなぁ………」
そんなことをつぶやきながらイアの頭を撫でる。アイリの遺伝子のおかげかかなりの美少女に成長しており、内心かなり驚いている。
「達樹………いる?」
部屋の扉の向こうからアイリの声が聞こえてきた。「ああ」と返事すると扉が開きフリル付のパジャマ姿で部屋に入ってくると、俺にくっつくようにして座って肩を俺の方へとゆだねてくる。
「ちっさかったイアがここまで成長してるなんて、あれから何年経った?」
「………」
数秒沈黙の後、アイリが、その答えを口に出した。
「今日でちょうど二百年………」
「そっか」
二世紀あまりの年月が、俺のいない間に流れていたのだろう。俺という希望を無くしたアイリにとっては、途轍もなく長い年月だったのだろう。
「俺がこうして戻ったのも、エルシアのおかげなんだ。アイリにとこうして再会できたんだ。この二百年も捨ててよかったのかもしれないな」
イアの寝顔を眺めながら言うと、咄嗟に左肩に激痛が走る。
「ちょ………イアの前だぞ………」
左肩には、小さな牙で俺の肩に噛みつくアイリの姿があった。そんな彼女を抱きかかえて、イアの部屋から飛び出し、客間であろう部屋へと入って、彼女をベッドの上へと投げ捨てる。
「わぁ!」
声をあげてアイリはベッドにあった枕に顔を突っ込んでしまう。咄嗟に起き上がるとぷいっと明後日の方向を向いてしまう。ベッドに座り込むと、左肩に痛みが走る。
「まだ欲しいのか………」
「だって………久しぶりなんだもん」
しゃべるとそのまま小さな口で再度肩を噛み血を吸い始める。伝説には、噛まれた者達は眷属となるらしいが、俺はそうなることがない。なぜなのかはわからないが、人を襲いたくない弱虫なアイリにとっては俺が一番都合がいいのだろう。
「今までどうしてたんだ?」
肩から口を離し、ゴクッンっと飲み込む音が聞こえてくる。
「あなた以外に吸うわけないでしょ?」
「まぁそうか」
以前、試しに他の人の血を飲んだことがあるらしいが、不味くては吐いてしまっていたらしい。だが、俺の血はどうも格別の様で毎日吸われている。
「我慢なんてよくできるよなぁ」
「私ほどになると二百年間、普通の食事だけで何とかなるもの」
「俺なら絶対無理だ」
ふふーんと自慢げにアイリは言うと、少し暗い表情になってしまう。彼女はよかったもののイアは、ダメだったのだろうと勝手に予想ができてしまう。ハーフといえども吸血衝動には勝てないのは事実だ。
「あんまり気を落とすな」
俺はベッドに寝転がり、左手を横に出す。するとその腕を枕にするかのように隣にアイリが寝ころんできた。足元にあった毛布を胸の方へと寄せ、彼女にかかるように毛布をかけた。
「うん」
小さい声で返事が返ってくるとアイリはすぅっと寝息を立てながら眠っていた。彼女の瞼の下によく見ると黒いクマがあり、そうと眠れていなかったのだろう。
しかし、不老不死である彼女がここまで疲労しているのがかなり意外だ。普段は、俺が寝ているといつもこっちを見つめていることが多かったのだ。
「やっと合流してくれましたか」
寝静まっている家の中で、そんな声が部屋中に響き渡り、天井がガラスのように割れ、その中からエリシアが出てきた。
「仕事でも終わったのか」
「ええ、そんなとこです」
「ふーん」
隣には眠りについているアイリ、目の前には、神々しい姿のエリシアが、部屋の端にあった木の椅子に腰かけていた。
「で、何しに来たん………ちょ………ま、まて………」
エリシアの方へと片腕で待ってくれと合図し、背中の方を見る。すると、アイリが、抱き枕にするかのように両腕で、俺を固定するかのように抱きしめていた。
「相変わらず仲いいわね」
「ああ」
「とりあえずこれ置いておくから、起きた後にでも読んでおきなさい」
エリシアが座っていた木の椅子に、紙の束を置く。「おやすみなさい」と声が聞こえた途端、一気に眠気が溢れ出す。まだ聞きたいことがあったはずが、眠気に負けてしまい、そのまま眠りにつく。
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