第2話 転生………新しい体にて
…
……
…………
目が覚めると目の前に、エルシアによく似た金髪エルフがいた。どうやら膝枕されているらしく、ほんのりと彼女の体温と太ももの柔らかさが頭に直接伝わってくる。えっと声を出して、彼女のから離れようとすると俺を離さんばかりに彼女が俺の頭を膝の上に押しつけられる。ぐえっと声が出るも、そんな様子を愛しそうに彼女が観てくる。
「あのさアリサ………そろそろ離れていいか?」
「ええ、さすがにこれ以上してるとあの子に怒られてしまうわ」
ふふふっと笑っているアリサの膝から立ち上がると、目の前にはありえないほど巨大な木がそびえ立ち、まるで永遠と生い茂っているかのような、緑色の葉っぱが付いた何千何万の枝揺れていた。
「すげぇ」
幻想的な美しさに思わず言葉が出てしまう。そんな俺の横で、アリサが字ッと俺の方を見つめていた。ずっと見つめられると恥ずかしくなる。次第に頬が熱くなっていくのがわかる。
「やはり、以前の達樹ではないのですね」
その言葉に、疑問を感じるも、エルシアが言っていたことが頭をよぎり、納得してしまった。
「ああ、以前の身体は異世界人の俺の身体だ。だが今の俺は………なんだ………?」
とっさに涙が止まらなくなってしまう。唯一の地球への接点が切れてしまったことが、原因なのか悲しみの感情があふれ出した。落ち着こうにも何もできない。ただ俺はその場で泣いていた。
「もう大丈夫そうね」
アリサがそういう頃には、数分が経った経ち、俺は泣き止んでいた。
「………ああ………すまない。助かった」
「良いわよ、達樹だけしかここにいないわけだし」
「いやいや、エルフ達がいるでしょ」
そう、世界樹が生成する特殊な結界の中にエルフ達の里がある。
「まぁね、あの子たち普段ここに来ないもの」
アリサ自身が、エルシアの片割れのような存在のためだろう。彼女は世界樹の巫女としてこの世界に存在している。アイリと同様に不老不死であり世界樹と共に生き続けている。
「そうか、ここは聖地だったな」
そんなことを言いながら、世界樹の根の上を歩き始める。地面からビルの三階ほどの高さがある中を平然と歩く。
「だいぶ慣れましたね」
「最初はほんとビビったけどさすがになれたわ」
足元を見ると、両足が震えているのがわかる。身体が変わっても高所恐怖症は変わらないようだった。ああ、早くここから出たいの一心で地上に向かって走り出す。俺の後ろからアリサも追っていた。
「この後はどうするおつもりですか?」
「どうするも何もアイリのとこに帰るよ」
「そう」
後ろにいるアリサの声が止まるころ地上にたどり着いた。周りが一面木々に囲まれており、木にはエルフ達の住居であろう建物がついていた。
「アリサ様!」
遠くからアリサを呼ぶ声が聞こえ、次第にエルフ達が集まり始める。エルフは美男美女ばかりで羨ましくなってしまうが、まぁいいだろう。
「どうして地上へ?」
「達樹を送りに行くついでです」
アリサが、万遍な笑顔でいうと隣にいた俺の方へと視線が向く。最初は誰だか分らなかったようだが、次第に思い出したのか、俺の方にも注目がで始める。
「ま、魔王様!」
「あれ? 亡くなったんじゃ………」
「魔王様ってだーれ?」
俺の様子にざわつき始める。すると、エルフの達が一人の高齢なエルフを連れてきた。見た目はまだ若さを放っている。
「久しぶりだのぉ~勇者よ」
「ああ、長老も元気そうで何よりだ」
そう、この里には勇者時代に一度訪問している。アイリの姉がいると聞いて訪れたわけだが、彼女の姉が当時アリサだということに衝撃を受けたことを思い出す。
「あの時はほんとよかった。お主のおかげで人間からの襲撃もなくなり安定な生活を作ることができたからのう」
「懐かしいな、あの時助けた長老の娘さん見かけないけどどうかしたのか?」
長老の顔が一気に暗くなるとアリサに左肩を叩かれる。振り向くと、耳もとでこんなことを言われた
「今代の魔王討伐へ向かってる最中なの」
「はぁ?」
大きな声で言ってしまう。俺のような事例が正しければ、魔王となったのは俺を倒した勇者で間違いないのだろう。しかし、なぜ彼が。
「お主は、勇者として魔王を倒してくれた。大賢者様も今お主の国を支えるのに精いっぱいの様じゃし、再度魔王を倒してほしいという夢をまたお主に託したくない」
そんなことをいう長老の瞳から涙が流れていた。知っているのだろう。勇者として魔王を倒したら、俺自身が魔王になってしまっていたこと。次代の勇者によって殺されたということを。
「ああ、わかってる。ただ俺はアイリとまた旅をするつもり。まぁなんだ今代の勇者がへましたら俺が代わりに魔王倒してやるよ」
俺は長老に向かって言い放つ。まるで俺が勇者になった時に戻ったかのように。
「旅か………お主なら何でもできよう」
「ああ………あ、そうだ長老。これてあるか?」
空中にウィンドウを表示させ長老に見せる。それにはエルシアから貰った不老不死の薬に必要な素材が記されている。
「どうじゃったか………アリサはわかるか」
長老がアリサの方を見つめる。彼女は俺が表示したウィンドウを見つめる。
「あら、○○の薬のレシピじゃない!」
一部不老不死という単語が変な言葉に聞こえてしまう。まるで世界にその言葉が、不潔だと言われているかのようだった。アリサは自分の口を押えて「ちょっと待ってて」と言って世界樹の方へと向かってしまった。
「今のはなんじゃ? あのアリサの声が壊れるなんて………」
「あ~多分共通語じゃ表現できなかったんじゃないかなぁ」
嘘をつくのは名残惜しくなってしまう。
すると、アリサが薄いピンクに光った花びらの様な物を抱えて持ってきた。
「これでよかった?」
アリサが持ってきたのは、だった。不老不死の薬の材料であり、花の蜜にはすべての病、傷、呪いを癒す効果を持つ伝説級の物だった。世界樹の花は、日本の桜をイメージしてくれると早いだろう。
「いいのか?」
後ろにいる長老とエルフ達の顔を見る。アリサは自分が花弁を持っていることを忘れ、俺を抱きしめてきた。
「ちょ………」
「今度こそ、生きて帰って」
「ああ」
返事をするとアリサは、俺から離れ花弁と共に手紙を渡してきた。
「これはなんだ?」
「私の連絡先」
「は?」
「冗談冗談! アイリへのお手紙だからちゃんと渡してよね」
アリサが、俺を右手の人差し指で指さしながら言ってくる。その様子を見ていた長老やエルフ達が笑っていた。
「後はこっち」
ポケットから紙を取り出してアリサが俺に渡してきた。広げてみると世界樹の森周辺の地図と、個々の近くに辺境の街が近いことが知りされていた。徒歩で行けば半日で着くほどの距離だ。
「こ、これいいのか?」
この世界には地図もかなりの試算になる。地図を持っている手が震えているとアリサがきょとんとしておりアイリと同様そのへんの価値がよくわかっていないようだった。
「とりあえずもらっておくよ」
「うん、そうしてくれると助かるかな」
空間魔法を広げ、その中に花弁とアイリへの手紙を入れるとアリサが耳もとで囁いてきた。
「辺境の街のイアちゃんのお店に行ってあげて、多分あなたの蘇生に気付いてアイリが探し回ってるはずだから」
と言われて、咄嗟に顔が赤くなる。イアは俺とアイリの娘だ。成人してからは年に数年しか帰ってこなくなたが、彼女の居場所がわかるのはかなりでかい。
「あの人見知りのアイリが?」
コクコクっとアリサが頷く。人見知りすぎておつかいすらいけなかったアイリが俺を探しているのがかなり衝撃を受けた。
「そろそろ行った方がいいわよ?」
アリサが、空を眺めながら言う。太陽が傾いているのか、空が青い色からオレンジ色に変わり始めていた。
「そうだな」
足を森の外の方へと進め始める。エルフ達が俺の世界を追うかのように歩き始める中で、子供たちが俺の前を先導する。
「外ってどんなとこなの?」
「この森には見たこともないものがいっぱい広がっているぞ」
質問してきた子供の頭を撫でる。えへへっと言いながら喜んでいる子を見てイアの幼いころのことを思い出して舞う。あ~あの時はかわいかったよなぁと思っていると、森が開け目の前には草原が広がっていた。
「すげぇ~!!」
子供たちが外の様子に興奮しだす中で、親であろうエルフ達が子供たちを押さえていた。草原に足を出すと森と草原の境目で、エルフとアリサが止まっていた。
「いつか………私も………」
「アイリ見つけたらすぐ来るからそれまで待っててくれ」
そうアリサの方へ向けていう。聞こえたのかアリサがにこっと笑顔をこっちに見せてくれた。遠くに見える町へと俺は足を進めるのだった。
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