元魔王、転生して人間になって嫁と隠居生活始めます。~不老不死の素材? そんなの周りが持ってくるんだが~
結野ルイ
第一章 魔王転生、そして人間へ
第1話 魔王は死に、新たな人間へ
「これで終わりだ 魔王!」
目の前の豪華な甲冑を身に纏い、オリハルコンで作られたであろう片手で収まるほどの剣を、振りかぶっている。その瞬間が一秒にも満たないはずだったのに長く感じられた。剣が、俺の心臓を貫き、赤い血が宙を舞っている。
「お前………も、いずれ………はこう………な………る………」
勇者の耳もとで囁くと、剣が胸から抜き取れ赤い血が活きよいよくあふれ出している。その様子を見ていたのか、霧が突然形となって彼女が現れた。白銀の髪と緋色の瞳をもつ者、吸血鬼のアイリだった。
「タツキ!」
こっちの様子に気付いたのか、魔法使いであろう少女がこっちを指さしているも、勇者はこちらを振り返ず、仲間の元へと行ってしまう。
「わ………わ、私も殺しなさい!」
眼の前が暗くなっていく中、アイリの声が聞こえてくる。その声から怒りと、悲しみの感情が伝わってくる。彼女が勇者の方に振り向いたのか、顔に冷たい雫が付く。
「僕には………人間に恨みがない君は殺せない。だから君には、次の魔王にならないでくれ」
勇者の声が聞こえてくる。これは彼なりの、アイリへの慰めの言葉なのだろう。確かに彼女は、俺以外を食べたりしない。だから、勇者達にとっては無害そのものだ。
「じゃあ………もう会うことはないだろうけど」
その声が聞こえた後、王座の間の扉が閉じる音が聞こえてきた。
「………第二のあなたを作りたくなかった………ただそれだけだったのに………こんなの………こんなのおかしいよ………!!」
・・・・
・・・
・・
・
俺の意識は、アイリの言葉と共に消えた。
・
・・
・・・
・・・・
冷たい………何だこの冷たさは。まるで裸の背中を冷たい床につけて寝ているかのようだ。あれ? 俺の意識はどうして生きてるんんだ。
「あ、起きましたか? 魔王 ユーベルト・ダイヤこと湯水達樹さん」
どこかで聞いたことある声が聞こえてくる。なぜ俺の日本の名前を知っているんだ。誰が言っているのか確認しようと瞼を明けようとするも全く開けることができない。
「駄目ですよ? まだ精製段階なんですから!」
・・・
意識が飛んでいたのか、瞼を明けれるようになっていた。俺は、全面ガラス張りの培養器に入っており、目の前には金髪の少女が俺の息子をじっと見つめていた。恥ずかしさのあまり両手で隠すと彼女がにやつく。
「起きました? とりあえず十六歳まで成長させたので苦労はないと思います。ですが以前のような力はあまりないことをここで伝えておきますね」
金髪の少女がこえをかけると、培養器の下にあるボタンを右手の人差し指で押していた。培養器内の水が一気に足元から吸われていく。あまりの水流が足を排水溝に吸い込むかのようだった。だが、かなりの勢いで吸い出していたのか、いつの間にか目の前の水が無くなっていた。
「とりあえずこちらに着替えてください」
培養器から出てきた俺に金髪の少女が自分が着ていた白衣を渡してきた。うっと一瞬唇を塞ぐもかなりの量で勢いが増し、一気に胃から口へ黄色い液体を吐き出した。せっかくの白衣が黄色に染まると、白衣の形が変わった。
「それプレゼントです!」
こうなることが分かっていたのか、金髪の少女が俺を見て笑顔になる。一瞬ドキッとするも、アイリの事を思い出した途端、体が正常に戻っていくのがわかる。
「ご、ご………は………」
必死に声を出そうにもまるで赤子かのようなものしか出ない。
「あ、無理しなくていいですよ? 念話で何とかなりますから」
金髪の少女が俺に言うと、いつの間にか俺は白衣が服へと変わった者に着替えていた。いつまでも裸なのはよくない。
『あー、これでどうだ?」
数秒待つと遅れて、ぴくっと金髪の少女が反応した。少しその様子がかわいい。
『大丈夫ですよ? 私のこと覚えてますか?』
『ああ、日本からこの世界に俺を召喚した張本人、主神エルシアだろ?』
『エルで構いません。元勇者様』
『誰が勇者だ。俺はもう魔王だ』
『はい、そうですね』
すっと流すかのような返事が返ってくると、エルシアはどこからかタブレット端末を取りだし、いじり始める。俺の方へと、営業で接客しているかのような笑顔でタブレットを見せてくる。
『こちらが今回のプランになります。魔王様』
『もう魔王でもなんでもないが』
タブレット端末の画面には、不老不死を、手に入れる方法が記載されていた。エルシアから強引に端末を奪い、左手で画面に触り始める。
スクロールしていく中で、不老不死になるには、ある特殊な薬が必要であることが記載されていた。
『こ……これは一体なんだ!』
『不老不死になれる薬の作り方だよ? ずっと欲しがってたじゃん』
『なんでこんなの俺に教えた!』
エルシアの首元を掴むも、彼女の身体が霧となったかのようにすり抜けた。
「んーなんでてあの子を幸せにして欲しいからだけど?」
そんな声が背後から聴こえてくる。振り向くと、エルシアが俺に向かって呪文を唱えていた。
「なにを………ずる……ぎ……だ……」
「あの子のとこに送ってあげるだけだよ? 君もその方が幸せなんだから文句言わないの」
足元に突然魔法陣が現れ俺を中心に回転し始める。持っていたタブレット端末をエルシアに奪われてしまう。
「不老不死の薬のレシピは、君の頭に入れて置いたから後で確認してね」
その言葉を最後に俺はこの場所から消えた。
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