「今晩は何する?」

「久しぶりだ、稽古でもしよう。葵、今は357回中、俺の123勝125敗109引き分けだ。今回は俺が3回勝ってやる。」

「いいけど、何処でヤンの?”力”の使用あり?ありだったらやるけど。」

「チェ、いいよ。お前の空間でやろう。そのほうが何かと便利だ。」

 彼は機嫌がいいらしく、珍しく口が達者になっていた。玉葵からすると、そこまで珍しいわけではなさそうだ。

「よし、のった。今すぐいけるか?あっ、武器の持ち込みは一つまでな。」

「俺は元々一つしか持ってねえよ。」

「じゃあ、行こう。」

 玉葵は微笑んで、指を鳴らした。すると、そこは今まで居たマンションの一室ではなく、広大な草原になっていた。彼らはそれぞれ剣と槍を持って静かに向かい合っていた。

「Ready――,GO!」

 其の合図のあと、激しい打ち合いが始まった。彼らは100時間ほどずっと打ち合っていたが、なかなか勝負がつかないらしかった。途中からは話しながら打ち合っているようだ。とは言ってもそれは罵り合いといったほうがいいかもしれない。

「おい、てめぇ、何でまだ息も切れてねぇんだ!ふつーの人間だったらとっくに死んでんぞ!」

「はあ?こっちのセリフだ、総!ろくに“力”使ってねぇくせに、何で生きてんだよ!人間の皮被った熊かてめぇは!!」

 玉葵は彼を総と呼んでいた。

「レキっとした人間だ、こっちは!というかてめぇこそそんな“力”使えるやつ、つーかそんな使って死なねぇーやつ始めてみたぞ!」

「ろくに“力”使えねぇー分際でほざくな熊!」

「熊じゃねーっつってんだろ!」

 150時間ほどたった時、示し合わせたように彼らは草むらに倒れた。

「こ...今回は...ひっ引き分けだな...」

「チェッ…。今回こそはいけると...思ったのに…」

「取り敢えず、もう寝る…」

 玉葵は疲れ切った様子で草むらに寝転んだ。玉葵の其の様子を見た彼も同じように寝転んだ。あたりは静かに時が流れていた。

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